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まち角
2020.08.7
白い布に、赤い糸で千人の女性が一針ずつ千の結び目を作る「千人針」。出征する兵士に弾丸除けのお守りとして持たせた。日清・日露戦争の頃に始まった武運長久と生還への祈りは、昭和期に日本中に拡がったそうだ▼結び目を並べるだけでなく、五銭や十銭硬貨を縫い込み「五銭」は「死線(四銭)」を「十銭」は「苦戦(九銭)」を超えるとの祈りも込められた▼その結び目で虎の姿を描いたものもある。寅年生まれの女性は「無事の帰還」を祈り、年の数だけ結び目を作った。「虎は千里往(い)って、千里還(かえ)る」という言い伝えにすがる思いで…▼今年94歳の母は、寅年生まれ。太平洋戦争中はご近所だけでなく、遠くの人も白い布を持って母を訪ねてきたそうだ。それに記された朱色の印に、赤い糸で年の数だけ結び目を作る。母が作った結び目は、生還への祈りを担い、兵士と共に出征したのだろう▼「兵隊さんに持たせるため、いろんな人が天竺木綿のごたあとば持ってきんしゃった」「いくつしたろうかねえ? 五十ちゃあきかんやろうね」と話す▼「無事に帰ってきた人はおらっしゃったと」と尋ねると、「そうねえ、帰ってきてお礼を言われた覚えはないねえ」と答える。7人兄妹の末っ子で、4人の兄のうち2人を戦争で亡くした母は、縁側から庭を眺めながら「みんな、帰ってこらっしゃれんやったっちゃろうか?」とつぶやいた。