糸島新聞
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続・糸島伝説集16

2022.02.18

 西浦の「矢の根水」(上) 西区西浦

玄界灘に突き出した糸島半島の突端にある福岡市西区西浦地区。集落の南側に「行者山」という山があり、その一帯を「下り尾」と地元の人たちは呼んでいる。そこは、玄界島や大机島、小机島が見える眺望絶景の地である。

この山の山麓にある苔むす岩の一つには、そばから谷水がこんこんと湧き出ている。この水は一説によると、昔、鎮西八郎為朝が都を落ちて琉球へ向かう途中、追手から逃れてこの山中に隠れ、山神に祈って岩を穿(うが)って水を求め、喉を潤したところと伝わっていて、「矢の根水」とか「為朝水」と呼ばれていた。

明治の初めごろ、近くの唐泊浦に半兵衛という漁師がいた。蒸し暑い六月の土用の半ば、半兵衛はまだ幼い息子の半次郎と一緒に「下り尾」から一海里ほどの沖合に舟を出してイカ漁をしていた。

漁を始めてから半兵衛は頻(しき)りに水樽を振ってみるが、何も音がしない。栓を開けてみると入れてきたはずの水が一滴も入っていない。周りを見渡しても近くを行き交う舟もなく、水を求めることもできない。

息子の半次郎も喉が乾いて水を欲しがっていたが、そのうちに寝入ってしまった。半兵衛は我慢して漁を続けていたが、日も沈んで次第に暗くなってきた。海は凪いで、舟べりを打つ波の音が耳に入るだけで、辺りは静かに更けていく。

その時、眠っている半次郎が苦しそうな呻(うめ)き声をあげると、口の中から蛍火のような薄暗い火がスーッと出たかと思うと、宙を飛んで「下り尾」の方角に向かった。そして、「矢の根水」付近まで行くとピタリと止まった。

しばらく火は止まったままだったが、再び動き出したかと思うと、矢のような速さで舟に戻ってきて半次郎の口の中へと入っていった。同時に海面で羽を休めていた海鳥がギャーッと鳴き声をあげて飛び去った。

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