糸島新聞
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続・糸島伝説集20 猟師をやめ熱心に信仰 長野の仏安兵衛(上)

2022.04.1

今から二百三十年以上前、長糸村長野に溝口安兵衛という壮年の猟師がいた。猟師といっても農業もすれば水車小屋も営むという、道楽半分の鉄砲撃ちだった。しかし、その腕前は確かで、いったん安兵衛に銃口を向けられたが最後、どんな鳥獣も逃れることはできなかった。

ある日、猟師仲間と晩飯を食べながら「久しぶりに雷山に猪狩りに行こうではないか。うわさでは近ごろ大きな猪が出るらしい」と話していると、皆は即座に賛成し、「では明日の早朝から猪狩りに出発しよう」と決まった。

仲間が帰った後、安兵衛は明日の準備を整えると「朝も早いことだし、早めに休もう」と、すぐに床に就いた。一睡したと思う間もなく出立の時刻になった。安兵衛は飼い犬を連れて仲間とともに雷山の峰深く踏み入り、猪狩りに取り掛かった。

受け持ちの場所にじっと身を構えて猪が来るのを待つが、一向に現れず遠くに犬たちの吠える声が時々聞こえるだけである。そのうち安兵衛は急に眠気に襲われ、うとうととし出した。すると、目の前がパッと明るくなった。紫色の雲が舞い降り、その上にまぶしく輝く御仏の姿が現れた。

安兵衛が畏(おそ)れて頭を下げていると、朗らかな御声で「我こそは雷山の観世音である。ほどなくお前の目前に狩りたてられた大猪がやって来るが、お前は決して撃ってはならぬ。もし、この戒めを破って大猪の命を奪ったなら、家で病に伏せているお前の父の命はなくなるであろう」と、宣(のたま)うと、その御姿は消えた。

「果たして今見たのはひととき夢だったのだろうか」。安兵衛は、木々の梢(こずえ)をわたる朝の風を受けながら呆然(ぼうぜん)としていた。そこへ静寂な空気を震わせ、地響きをたてながら犬たちに追われた大猪がやって来た。安兵衛は、一瞬先ほどの夢のことは忘れて、銃口を大猪に向け、引き金を引いた。それはまるで条件反射のようである。

大猪は深手の傷を負い、地面に倒れたものの、まだ暴れていた。そこへ仲間の猟師たちが駆け付け、とどめをさした。「さすがは安兵衛、見事な腕前だ」と、皆は一発で仕留めた安兵衛を褒めたたえた。

大猪を担いで山を下っていると、道の遠く向こう側から数人の人がやって来る。近づいてみると、それは長野の人たちで、安兵衛の父の病状が急変し、危篤になったことを伝えに安兵衛たちのところへ向かっていたのだった。

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