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続・糸島伝説集23
2022.04.22
河童の話(下) 神在の「長者原」と荻浦の「河童淵」
荻浦の庄屋五八の作男は、今日も朝早くから弁当を持って沖田の開墾に行き、連れてきた馬を幽心堤に繋いでいた。そこへ一匹の河童が現れ、馬の尻尾を握って川へ引き込もうとするではないか。
青草を食べていた馬は驚き、後ろ脚で河童を蹴ったので、河童はしたたか頭を打って大地に投げ出されてしまった。これに河童は怒り、「今度こそ川に引き込んでやる」と、手綱の輪差(わさ)に手を入れて思い切り引っ張ると、馬は死にものぐるいで暴れ、一目散で家に向かって走り出した。
輪差に手を入れている河童は、どんどん腕が締め付けられるので、どうすることもできず、馬に引きずられながら、とうとう庄屋の家の門口まで来てしまった。
ただごとならぬ馬蹄の響きに、庄屋五八は驚いて家を飛び出ると、一匹の河童が厩(うまや)口にへたばっている。「うわーっ河童だ。ふん縛ってしまえ」と庄屋は家の者を呼び出して、納屋の柱に河童を縛り付けさせた。
庄屋五八は「こらっ河童、この間村の子どもを川に引っ張り込んだのもお前だな。不届き者め、打ち殺してやる」と、六尺棒を振り上げた。慌てた河童は「どうぞ命ばかりはお助けください。今後、決して悪いことはしませんから…」と、必死で助命を乞うた。
「今後絶対に悪さをしないなら容赦しようが、その代わりに河童の一番嫌いなものを教えろ」と庄屋五八が言うと、河童は「分かりました。河童の嫌いなものは人間の唾(つば)と仏飯です。人間に唾を吐きかけられると神通力を失い、唾が乾くまで体の自由さえききません」という。
庄屋五八が「嘘偽りではなかろうな」と問いただすと、「河童は人間のように嘘は申しません」と答える。「生意気なこと言う河童だ。もう余計なことはしゃべるな。今言ったことを信じてやろう」と、庄屋五八は縄を解いてやった。すると、すぐに河童は庭の池の水を頭のさらに入れると元気を取り戻し、幽心堤の方目指して逃げていった。
その後、河童封じには川に仏飯を供え、河童に会ったら唾を吐きかけるのがよいという話が広がっていった。
幽心堤から井樋堰を経て神在川と多久川の合流地点付近には、深い淵があって村人たちは『河童ほげ』と呼び、この深淵にはたくさんの河童が棲んでいると信じられていた。明治の終わりころまでは、村の女性や子どもたちがそこを通る時は、唾が出やすいように梅干しを持っていたり、仏飯を持っていたりしていたという。
なお『河童ほげ』は、昭和の初めごろの河川改修工事でなくなったそうだ。