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続・糸島伝説集33
2022.07.1
神功皇后の征韓のみぎり、万余の軍団は筑紫国志摩郡(現在の糸島市志摩野北一帯)に駐屯して、海路の調査や糧秣(りょうまつ)の準備で数カ月を同地で過ごすうち、新潮泉という若い武士が駐屯地近くに住む千鶴香という豪農の娘と相思の仲となった。
若い二人は仕事が暇な時には、野山に出掛けたり近くの浜辺に出て腰を下ろして愛を語り合ったりしていた。そんな二人だったが、出陣の準備も整い、後は出航によい天候を待つばかりとなって、二人には無情の別れの日が近づいていた。
いよいよ出陣の日も決まり、新潮泉と千鶴香は「無事に凱旋したら一緒になろう」と約束し、抱き合って別れを惜しんだが、山野に轟き渡る出陣の鉦鼓(しょうこ)の響きに促されるように離れた。
新潮泉が乗った船が遠く水平線の向こうに見えなくなるまで手を振って見送った千鶴香は、新潮泉の武運長久を毎日祈り続けた。戦いが終わったという噂を聞いた千鶴香は、新潮泉の凱旋の日を一日千秋の思いで待ち焦がれ、夜ごとに近くの山に登って帰還の船の目印にと、篝火(かがりび)を焚いた。
しかし、いくら待っても新潮泉の乗った船は戻ってこない。それからしばらく後、風の便りで新潮泉が戦場の露と消えたということを知った。恋人の無事を祈り続けていたが、その願いは届かなかったのだ。