続・糸島伝説集47

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金の茶釜はどこに 長糸本区(上)

 長糸の本にある六所神社の裏手に蚯蚓(みみず)の這(は)ったような細い道があり、以前は道の両脇に雑木が生い茂って、昼でも暗い闇夜のようであったという。

 今から二百年近く前の天保年間のことである。秋八月のある日、村の百姓仁平が竹伐(き)りに行っての帰り、薄暗いその道を通り抜けようとしたところ、どこからともなく「仁平、仁平」と呼び声がする。立ち止まって辺りを見回すが誰もいない。仕方なく歩き出すと、再び「仁平、仁平」と誰かが呼ぶ。

 「どこから声がしているのだ。いったい誰が俺を呼んでいるのか」。不思議でならない仁平は、とうとう肩に担いでいた竹を足元に下ろして四方をくまなく見回したが、やはり人影はない。「狐狸(こり)の野郎が、昼間から人間様を化かそうとしているに違いない。ほかの者ならいざ知らず、この仁平様を化かせるものなら化かすがいい」と、捨て台詞を吐いて家へ帰って行った。

 それから数日後のこと、仁平がまたその道を通りかかると、また「仁平、仁平」と呼ぶ声がする。不思議なことがあるものだと思ったが、気を取り直して今度は路傍の石に腰を下ろして、煙草をふかしながらしばらく休んで様子をみることにした。

 すると小枝の間から見えていた田んぼの中から、一瞬稲妻のような眩(まばゆ)い光が射した。「あの光は何だ。田んぼの中に何かがあるのか」と、仁平は不思議に思い、急いで家に戻り、隣近所の者たちに自分がたった今見た出来事を話した。

 仁平は村人とともに鍬(くわ)を持って、光を発した田んぼに行き、みんなで掘ってみた。すると異様に光る一個の石が出てきた。みんなは「これは何と不思議な石だ。きっと神の啓示であろう」と、ほど遠からぬ場所を選んで祠(ほこら)を建て、この石を『神差子の地蔵様』と呼んで祀ったという。

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