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夏の夜に味わいたい 糸島の怪談《二丈編》馬止めの石

2018.08.30

江戸時代初期の二丈町吉井の竹戸の話である。

かつて吉井城主だった吉井家は、庄屋役となり格式の高い家風を保っていた。ある日、庄屋が浜の村で所用があり、振る舞い酒も受けたため、馬に乗っての帰路は深夜になってしまった。村外れの竹戸神社(白山神社)の大石の手前に来た所で、馬が一声を上げて立ち止まった。馬の横腹を蹴ったり、降りて手綱を力いっぱい引いたりしてもびくともしない。庄屋は困り果ててしまった。

すると、生ぬるい一陣の風がちょうちんの火を吹き消し、当たりは真っ暗闇に。庄屋がふと目をやると、乳飲み子を抱いた女が現れた。

「何者だ。この夜更けに何をしているのか」。庄屋に言われた女は、臆せずにすっと近寄り、「馬が進まないのは私がここにいるからでございます。用事を終えるまでの間、この子を抱いてくださいませんか」と真剣に頼み込んだ。庄屋が引き受けると、女は「この子は少し重いかもしれませんが、決して落とさないでください」と妙なことを言い、姿を消してしまった。

赤ん坊は大きさの割に重かった。何のこれしきと抱いていたが、赤ん坊は次第に大きく重くなっていくではないか。

「これは大変な子を預かってしまった。しかし、女の頼み。落としてはならぬ」。庄屋は帯刀の下げ緒を赤ん坊の体に回して握り、必死に抱きかかえた。庄屋が我慢し続け長い時が過ぎた頃、女がようやく戻ってきた。

女は戻りの遅さを謝って言った。「よく重いこの子を辛抱して抱いてくださいました。おかげで大切な用も済み、これで私も安心して成仏できます。この子の重さに耐えられたお力があなたの家に代々伝わるよう、体の大きい力持ちの男児が生まれるよう念じます。それがお礼でございます」。

頭を深々と下げたかと思うと、女の姿は大石の中に吸い込まれるように消えていった。その途端、馬は何事もなかったかのように歩き出し、庄屋は無事に帰宅した。

この話は、まち村中に広がり、神社の前の大石は「馬止石」と呼ばれるようになった。その後、吉井家の男児は代々、大きくて力持ちに育ち、「吉井には力士がいる」と口の端に上ったという。

その大石は今も、竹戸神社の石垣の間に頭をのぞかせている。

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