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「うちの役割、果たせたかな」  連載「福吉ジャズ」の軌跡 (下)

2019.02.7

ジャズドラマーの森さんとメンバーらが二丈中を訪れ、吹奏楽部の部員たちとセッションの練習をした=2017年12月

 ■世界が広がる

 糸島市立二丈中の吹奏楽部は「福吉ジャズ」の企画で、2018年に計3回、プロミュージシャンとのセッションを経験した。相手は、米・NYを拠点に活動する森智大(ドラムス)、国内トップレベルの須川展也(サックス)ら。たとえ「A列車で行こう」1曲のセッションでも、事前練習やリハーサルを通し、生徒たちは強い影響を受けた。

 アルトサックス担当で同部副部長の原夏樹(2年)は「プロが出す音と自分の音の違いや、何に意識を向けて吹いているかなど、勉強になった」と語る。顧問の髙浪伊織(42)は「部員たちのジャズ演奏のノリが変わってきた。生徒たちの音楽の世界を広げてくれた」と、きっかけをくれた福吉ジャズ代表・井口賢治(47)への謝意を何度も口にした。

■「前例がない」だけ

 活動が地域にもたらしたもののうち、校区公民館での有料イベント開催に風穴を開けたことは特筆に値する。
井口が14年、地元の福吉公民館で第1回ライブを開こうと利用申請に行くと、「有料のライブはできない。前例がない」とむげに断られた。市役所の担当課も同様の答え。そんなはずはないだろうと3カ月粘り、「糸島市立公民館施設提供基準」という内部文書に、有料イベントの使用許可条件などが明記されていることを引き出した。
当時、波多江公民館の主事だった松吉幹人(63)は、校区公民館でやるイベントは、地域住民の出し物披露がメインで、プロ歌手を呼ぶにしても公民館事業でしかできない、と思い込んでいた。ジャズ好きで福吉ジャズの第1回ライブを聴いた松吉は、校区公民館で一流のミュージシャンの生演奏を堪能し、「目からうろこだった」と振り返る。

 ■DNA受け継ぐ

 同市高田の幸田吉史(58)が実行委員長に立ち、松吉たちが有料の「波多江音楽祭」を開いたのは、福吉ジャズの始動から半年後。井口に2回目までサポートしてもらった。音響設備などにお金はかかるが、松吉は「音や出演者のモチベーションの高さは無料の催しと比較にならない」とライブの質に胸を張る。「波多江はジャズだけでなく、フォークやフラメンコなども。福吉のDNAを受け継ぎ続けていきたい」と語った。

 福吉ジャズのライブが、2月16日のラスト1回となった1月下旬。井口は、最終回の会場が管理者の都合で急に使えなくなったと知り、打ちのめされた。窮状をやむなくSNSに投稿。

 それを読んだ同市志摩久家の「いとの森の歯科室」院長の原田愛。反応は素早かった。歯科室に、スタインウェイのグランドピアノを置いた小ホールがあり、時々ライブを開く。井口と面識はなかったが、無料貸し出しできる、とメッセージを送った。「福吉ジャズの活動を人づてに聞き、素晴らしいと思っていたから」と原田。翌日、井口は同歯科室を訪ね、会場を確保できた。

 井口は「うちの役割はもう果たせたかな」と話す。週末に糸島で音楽イベントが六つ七つ開かれる時期もあるから、という。井口が糸島地域の文化の土壌を豊かにする新たな活動を、また始めてくれると期待したい。(敬称略)

 (この連載は南家弘毅が担当しました)

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