自然との共存を続けてきた福岡県糸島市の人々の暮らしや営みを、持続可能な開発目標(SDGs)をキーワードに子どもの目線で見つめ、地域の未来を考える「いとしまSDGs探検隊」。プロジェクト2年目の2023年度のテーマは、豊かな自然が残る【中山間地域】。糸島市の小学生から大学生まで17人の隊員が撮影機器を手に現地に出向き、人口減少や高齢化、農業の担い手不足などの課題に取り組む人の活動を取材。将来にわたってこれら地域をどう守っていくか、課題解決を探り動画にまとめた。1月21日に糸島市役所で開かれた成果発表会での内容とともに紹介しよう。

いとしまSDGs再発見プロジェクト事業
糸島市、テレビ西日本、西日本新聞社、糸島新聞社が連携協定を締結して実施。糸島市内のSDGsの取り組みを「再発見」し、市民の理解促進や実践へとつなげる。

いとしまSDGs探検隊

 いとしまSDGs探検隊は、小学生7人と中学生3人、高校生6人、大学生1人の計17人で編成。このうち、6人が22年度から継続して参加している。22年度は2チームに分かれ、「農業」と「森林保全」の二つのテーマを取材したが、23年度は1チームでまとまって活動を行う。22年度に続く2年目の取り組みで、23年度のメンバーは、同市の魅力となっている豊かな自然が残る中山間地域の現状を知り、将来にわたってどう守っていくのか、課題解決策を探る。

瑞梅寺と王丸地区を訪問
豊かな自然と取り組みを動画に
 隊員は23年9〜11月、撮影機器を手に市内の中山間地域である瑞梅寺と王丸地区を訪問した。人口減少の課題が深刻という瑞梅寺地区では、地域の保全や魅力の発信をしている井上和雄さん(72)の話を聞いた。また同地区の高齢者サロンを訪れ、交流を深めた。王丸地区では、農業の楽しさを交流サイト(SNS)などでも発信する若い世代の農家・谷口汰一さん(27)を取材し、竹林整備や稲刈りを体験した。
 隊員は取材で得た気付きをより多くの人に知ってもらおうと、約2カ月にわたって市役所に集まり、話し合いをしながら動画編集に挑戦した。撮影した豊かな自然や地域でのSDGsの取り組み、インタビューの様子などを編集ソフトでつなぎ、独自のクイズを入れたり、テロップやBGM、ナレーションを工夫したりとアイデアを盛り込んで仕上げていった。

活動記録

「任命式 & オリエンテーション」2023.9.3

中山間地域って?糸島市の子ども17人が隊員に

 探検隊員の任命式とオリエンテーションは2023年9月3日、グローカルホテル糸島(糸島市泊)で開かれた。任命されたのは小学生7人、中学生3人、高校生6人、大学生1人の計17人(このうち6人が22年度も参加)。22年度は2チームに分かれて「農業」と「森林保全」のテーマを取材したが、23年度は全員が1チームにまとまって、テーマである「中山間地域」を取材し、動画編集に取り組むと告げられた。
 式で糸島市長の月形祐二さんは「中山間地域で頑張っている人の姿を見て、糸島の魅力を次の世代に伝えていくための活動にしてほしい」と呼びかけ、任命書を一人一人に手渡した。
 式前のオリエンテーションでは、同市内で人口が増えているエリアと減っているエリアの地域性について考えたり、中山間地域について調べたりした。「都会の人が訪れる観光地やブランド産品など農林水産物の生産地は、人口が減少しているエリアにある」と知った隊員は、「糸島らしさを保つには、人口減少地域を維持、発展させていく必要がある」などを確認し合った。

ヤギを放牧して草刈り補助
里山の環境保全には知恵が必要だ2023.9.16瑞梅寺
地区

訪問先:「糸島市瑞梅寺オオキツネノカミソリを守る会」 会長 井上和雄さん

 瑞梅寺地区の保全や魅力の発信などに取り組む井上和雄さんを訪問し、現状などを聞いた。井上さんによると、この地域で生活する約50世帯のうち、高齢者のみで暮らす家は半数を超える。専業農家は3世帯のみで農業に携わる若者が減少しているという。
 課題の一つに土手などの草刈りがある。草刈りや水路管理をしている人の多くが70歳以上だが、草刈り機などの操作は力が必要で危険も伴う。そこで実験的にヤギを放牧して斜面の草を食べさせている。稲も食べるなど解決は簡単ではないが、「放置して茂みになるとイノシシがすみ農作物の被害が大きくなる。知恵を絞り里山の環境保全を続けるのが大切」と井上さんは強調した。

米ぬかやふんを捨てず上手に活用
工夫した堆肥をまいて「すくすく育て」2023.10.1王丸
地区

訪問先:王丸農園/竹林整備 谷口汰一さん

 若手農業者の谷口汰一さんを訪問。15㌶で米、裏作で麦、6㌶で大豆を生産しているほか、農園で3〜4月、一般客向けにタケノコ掘り体験を展開している。この日、隊員は竹林整備を手伝った。タケノコが育つ山で細い竹を切ったり、米ぬかや牛ふん、大豆かすなどを混合した堆肥をまいたりと、作業に汗を流した。
 谷口さんは「収穫した米を精米するときに出る米ぬかを、堆肥に混ぜて再利用している。栄養があり肥料代も抑えられる」と説明。この工夫を凝らした堆肥のおかげで土が元気になり、タケノコがよく育つようになったという。

農業の楽しさ、大変さを知った一日
羽釜で炊いた新米は最高だった!2023.10.15王丸
地区

訪問先:王丸農園/竹林整備 谷口汰一さん

 谷口さんの指導で鎌を使って稲を刈り、束にした稲を縛って、柵に掛ける一連の作業を体験。束がほどけないように、しっかり縛るのが難しくて悪戦苦闘した。稲刈りの後は、羽釜で炊いた新米を田んぼの景色を見ながらみんなで食べた。口に入れるとふっくらモチモチ、すごくおいしくて笑顔になった。
 谷口さんは若い親子に向けた農業の体験イベントを実施。SNSに投稿して参加者を募集している。「若い人に農業の楽しさ、大変さを知ってもらい、食のありがたみを感じてほしい」と語った。

卓球バレーや買い物補助を体験
高齢者の生きがいづくりは重要な課題2023.11.3瑞梅寺
地区

訪問先:瑞梅寺行政区 高齢者サロン

 高齢化率が43%にまで達している瑞梅寺地区では、主に高齢で一人暮らしの女性が1カ月に1回「高齢者サロン」に集っている。お茶を飲んでおしゃべりし、卓球バレーなどで一緒に体を動かし、交流する機会は生きがいづくりにつながっていると知った。移動販売車「いと丸くん」が、この地域で大活躍していた。同車は波多江駅近くのスーパー「マルコーバリュー」が実施し、買い物に出かけるのが不便な地域に住む人のために、曜日ごとに市内の地域を割り振って巡っている。高齢者は自分で商品を選び、買い物を楽しんでいた。

成果発表会

市民ホールで動画を初披露・1月下旬から配信中

 探検隊が取材し、動画にまとめた成果発表会は1月21日、糸島市役所の市民ホールで開催された。探検隊の家族や取材協力者、連携事業者のテレビ西日本、西日本新聞社、糸島新聞社、糸島市の関係者らが見守る中、約13分の動画を披露し、一連の取り組みについてそれぞれが感想を述べた。
 前原西中学校1年の松永佳歩さんは「卓球バレーをすることで地域のつながり、お年寄りの生きがいをつくることができていると感じた」と気付きを話した。また波多江小学校5年の麻生結月さんは「SDGs探検隊で学んだ内容を今後の学校生活にも生かしたい」と語った。
 糸島農業高校2年の川添拓夢さんは「手間や時間がかかる堆肥を混ぜる作業などは野生のイノシシの力を借りるなど、中山間地域ならではの工夫をしていると知ることができた。きれいな景色を見ながら食べる炊きたてのご飯はとてもおいしく感じたのが印象的だった」と振り返った。
 取材に協力した瑞梅寺地区の井上稔信さん(76)は「台所では当たり前のように水が出てくるが、蛇口の向こうには私たちが守っている山や田んぼがある。水を使うときに瑞梅寺のことを思い出してほしい。都市と農村が手を組んで力を合わせれば、もっと中山間地域もよくなると思う」と語りかけた。
 また月形市長は「中山間地域という難しいテーマに取り組んで、取材を通して糸島の光と影の部分を見たと思う。持続可能な地域づくりのためにも皆さんが感じたことをぜひ広めてほしい」と講評を述べた。
 探検隊が制作した動画は1月下旬からユーチューブで配信中。探検隊の活動の様子は今月11日(日・祝)にテレビ西日本で放映され、その後1年間、糸島市の公式ホームページで視聴できる。

成果発表「動画」
糸島市公式ホームページはこちら
YouTubeチャンネルはこちら