コラム まち角

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 このコラムで先週取り上げたネット上で批判や中傷が集中する「炎上」。テレビやラジオがまだ存在せず、新聞がメディアの中核だった19世紀後半、現代の「炎上」を連想させるような短編小説が米国で書かれた。マーク・トウェインが著した「私が農業新聞をどんなふうに編集したか」▼農業新聞の主筆が休暇をとることになり、代理の男が臨時に筆を執った。だが、農業について全く知らなかった。カブが木の枝に実っていたり、水中に雄のガンが卵を産んだりと、数々の荒唐無稽な記事が紙面に載った▼新聞社の前には著者を一目見ようと人だかりができた。記事に怒り心頭の老紳士が社内に勇んで入り込み、男を問い詰める。だが、男はのらりくらりとかわし、平然とでたらめを語り続ける。老人はちぎり捨てた新聞を踏みつけ、ステッキでさまざまなものを壊し去っていった▼コミカルに描かれた作品だが、実は大衆の人気を博し発行部数を伸ばそうと事実をゆがめ、センセーショナルな報道をしていた一部の新聞に対し、強烈な皮肉が込められている。刺激的で誇大な報道は「イエロー・ジャーナリズム」と呼ばれ、当時は会いもしないインタビュー記事や空想による探訪記が載ることすらあった▼キューバに停泊中の米国軍艦が爆発した際には「スペインの陰謀」とあおり、米西戦争(1898年)をけしかけた新聞がある。この新聞の経営者は現地派遣の挿絵画家にこう伝えたという。「君はとどまって絵を用意しろ。私は戦争を用意する」。何を意図して発信された情報か。時代が変わっても見極める目を持たねばならない。

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