コラム まち角

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 普段は見学できないさまざまな文化財が特別公開される京都市の観光キャンペーン「京の冬の旅」に合わせ、古都の禅寺を巡る旅をした。臨済宗妙心寺派大本山の妙心寺。広大な境内には、本寺に付属する小寺の塔頭(たっちゅう)が46もある。その一つに戦国武将、石田三成一族の菩提寺があり、公開中というので訪ねてみた▼その寺は壽聖(じゅしょう)院で、三成が父の菩提寺として創建した。だが、三成が関ケ原の戦いで敗れた後、壮大を極めた本堂は解体された。この寺に逃れて出家し徳川家康に死を免じられた三成の長男が寺を再建したが、境内は4分の1に縮小された▼とはいえ、絵師・狩野永徳の設計と伝わる庭園は残された。三成の主君、豊臣秀吉が本陣に押し立てた馬印を模した瓢箪(ひょうたん)形の池は往時と変わらない姿をしている。三成一族がこの庭をどんな思いで守り伝えたのか、敗者の悲哀を感じつつ、建物の奥へ進んだ▼畳の間を仕切るいくつもの襖(ふすま)絵を目にした時、新鮮な雰囲気に包まれた。花々に包まれ、慈悲深い顔をのぞかされた観音さま。周りはアサギマダラが蜜を求めて舞う。後世に残る新たな文化財を生み出そうと、2011年に始まった襖絵プロジェクトの一環として描かれた▼絵師は公募で選ばれた村林由貴さん。無名の新人で25歳という若さで抜てきされ、寺に住み込み、禅修行をしながら11年をかけプロジェクトを完遂した。「現代の永徳」という期待を背負っての創作。瓢箪池と同様、村林さんの襖絵が遠い未来の人たちの心をとらえることを願っている。

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