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「毒溜め」か「毒矯め」か
わが家の庭に植えたバラの花の時季が終わり、美しく彩られていた玄関の花瓶が空となってしまった。あまりにも寂しげな光景なので、何か生ける草花はないかと庭を見まわすと、思わぬ花園があることに気づいた。植えたわけでもないのに、いつしか裏庭に群生していたドクダミ▼5、6月ごろが花のシーズン。黄色い小さな花が突起し、その下に葉が変化した白い花びら状の総苞片(そうほうへん)が4枚咲いている。見慣れたハート形の葉に、明るい花が映え、花瓶に挿すと、すがすがしい▼それにしても、これほど評価が分かれる草花は、ほかにないのではなかろうか。端的に表しているのが名の由来。「毒溜め」か「毒矯め」がなまり、ドクダミになったという。もちろん、二つの意味はまったく逆。毒を溜(た)め込んでいるのか、毒を抑えて矯(た)める(悪いものをよくする)のか▼前者は葉や茎を摘んだときに放つ独特の臭いをイメージしたものであろう。中国では、魚の生臭さがある草という意味の名が付けられている。後者は、古くから薬草として重宝されてきたことを意識したものであろう。俳句では、ドクダミは夏の季語として「十薬(じゅうやく)」という言葉がよく使われる▼調べていると、こんな俳句に出合った。「どくだみや真昼の闇に白十字」(川端茅舎)。日陰を好むドクダミ。初夏のまぶしい日差しがつくり出す濃い陰に、目が慣れてくると、その花はより可憐に見えてくる。とはいえ、庭にはびこる厄介ものとの声も聞こえてきそう…。いえいえ、一輪一輪見つめると、とても控えめで愛らしいですよ。