【糸島市】地域とともに歩む筑肥線

筑前前原ー虹ノ松原  開通100年

 福岡市中心部と糸島市、佐賀県北部地域を結び、九州北西部の発展に寄与するJR筑肥線。その前身である北九州鉄道が、大正時代に鉄道敷設を開始し、糸島市中心部の筑前前原(駅名は現在名を使用)から唐津市の虹ノ松原まで1924(大正13)年に開通して、今年で100年を迎える。翌年の25年には東は福岡市の姪浜まで、西は東唐津まで延伸、さらに26年には博多までが開通。貨物、旅客輸送の大動脈として地域と共に歩んできた筑肥線のこれまでの歴史や役割、話題を紹介する。

     ◇

 「旅行に行く時も、博多や空港まで電車で1本。駅近という抜群の立地が気に入った」。95年に開業した糸島市の美咲が丘駅南側のマンションに住む山田幸次郎さん(55)。筑肥線沿線に移住して20年近く。その便利さに満足した日々が続く。2人の子どもは学生だった時代、通学の足として利用。「踏切の警報音が鳴ってから、子どもは駅までダッシュ。それでも間に合いましたね」。娘を福岡市内の中高一貫校へ6年間通わせたのも、筑肥線があったからできた選択だった。

福岡市地下鉄との相互乗り入れ時に製造された当時の国鉄色を復活させた車両(左)と現在のもの

 筑肥線沿線は、海にも山にも近く、住環境の良さや福岡市や唐津方面への交通の便の良さも魅力となり、住宅地の造成が進む。83年に姪浜-西唐津間が電化され、福岡市地下鉄と相互乗り入れを開始した。
 当時の糸島新聞では「電化を見越しての宅地開発ブームは続き、国鉄前原駅前通りでは新しい店舗が立ち並ぶ」と町の変容ぶりを伝える。

 筑前前原から福岡市中心部までの所要時間がこれまでの7割に縮まるなど利便性は高まり、「電化がきっかけ」の沿線開発は勢いを増した。05年には九大学研都市駅、19年に糸島高校前駅と新駅が起爆剤となり、沿線の住宅開発は西へ西へと進んでいる。

      ◇

 ただ、筑肥線は当初、旅客だけではなく、石炭や農作物などを運ぶ貨物列車としての役割も大きかった。国鉄になってからもその役割は続き、64年に、筑前前原駅南側に糸島郡農協が「積出し専用貨物線付き」の前原共同選果場を建設した。落成当初から配属となった生産部園芸課の職員だった月形昭之さん(82)は「場内に貨車の引き込み線があり、横付けした貨車にベルトコンベヤーで箱詰めされたミカンを流し込んでいた」と当時の様子を話した。ミカン生産は72(昭和47)年には3万トンの大台に達するなど、貨車だけでは間に合わず、トラックを併用するようになった。同時期に、効率的なトラック輸送などモータリゼーションの進展が加速し、筑肥線は貨物の取り扱いを廃止し貨物から旅客輸送へとその役割を変えていった。

筑肥線_前原共同選果場「筑前前原駅南側に建設中の選果場」

      ◇

 筑前前原駅は、糸島市の玄関口として1日約6千人(22年度)の乗車人員があり、同沿線では九大学研都市駅に次ぐ多さ。観光客に人気の海沿いスポットや山へと向かう観光の拠点となる。

 電車を使って県外から訪れる観光客は増えている。一方で筑肥線を使って観光に訪れる人に対して、2次交通をどう整えるかが課題だ。市観光協会は「二見ヶ浦や芥屋など駅から離れたスポットを目指す観光客が多いが、両方に行こうとしてもバス路線がつながっていない。移動手段にレンタサイクルを使う人も増えたが、観光地までの距離を伝えると、その遠さに驚く人も多く、天候にも左右される」と話す。

 昨年8月から、二見ヶ浦-芥屋間で無料シャトルバスを週末のみ運行している福岡伊都バスの越路健二副社長(40)は「車を運転できない若者や高齢者にも糸島観光を楽しんでもらうためには、駅からの2次交通をしっかりさせることが大事」と強調する。

 筑肥線の強みは、地下鉄を通じて福岡市中心部に通えるだけにとどまらず、全国各地へとつながっている博多と直結していること。これを観光やビジネス、九州大学での学術交流にどう生かすか、糸島地域の今後の発展にも大きくかかわっている。

乗り鉄、見どころ紹介

「ビルが立ち並ぶ姪浜から10分もたたないうちに、一面に海が広がるというギャップ。景色が単調になりがちな他の路線では見られない景色ですよね」。筑肥線の魅力を語る、糸島市の怡土小学校校長の髙瀬雄大さん(55)=写真。鉄道ファン歴40年以上、鉄道に乗るのが好きな“乗り鉄”だ。

髙瀬雄大さん

 160万人都市の福岡市中心部から30分ほどで、手軽にリゾート感覚が味わえる自然豊かな糸島。特に筑肥線は「海も山も景色が楽しめて、日帰りでも旅したような気分になれるお得感がある」と髙瀬さん。
 お気に入りの区間は、下山門-今宿間。「下山門駅を出発して暗いトンネルを抜けると、一気に目の前に広がる海。糸島に来たって感じで、一番(気分が)アガリますね」。海辺の景色を正面に楽しめるよう、筑前前原に向かって左側座席に座るのも髙瀬さんにとってのお約束だ。

 「一貴山-筑前深江間は、田んぼの真ん中を走っている感覚。福岡でもめったにない景色」「筑前深江-福吉間は海が近く、国道の車と並走する感じ。夕日が落ちると、キラキラ輝くのが美しくて」と話は尽きない。
 強風で止まってしまうこともある筑肥線だが、「風が抜けるように、それだけ周りに景色が広がっているということ。これからも利用客を支えて、がんばってほしい」とエールを送る。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

1917(大正6)年の創刊以来、郷土の皆様とともに歩み続ける地域に密着したニュースを発信しています。

目次