コラム まち角

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やはり、そこに描かれているのは、この世のものを焼き尽くす炎であろう。強烈な熱と光を放つ火炎には残忍で非情ないくつもの目。化け物たちが暴れまわっている…。糸島市のアトリエでおもに夏場を過ごし、昨年6月に亡くなった洋画家、野見山暁治さんの大作「みんなウソ」。野見山暁治財団から市に寄贈され、2月25日まで伊都郷土美術館で公開された▼この絵と向き合った瞬間、戦争におびえる野見山さんの姿が浮かんだ。野見山さんと深い親交があった早良美術館るうゑ館長の東義人さんは昨年8月、本紙に寄せた追悼文で、野見山さんのこんな言葉を紹介した。「愛する人といる瞬間が長く続くことを願うのが平和」▼西日本新聞で昨年8月、7回連載された「残された絵描きの言葉 野見山暁治と戦争」を読み返し、生涯を振り返ってみた。野見山さんは太平洋戦争の最中、東京美術学校を卒業。その後、陸軍に入隊し、対ソ連の前線、満州へと送られた。だが、肺を病んで日本本土に移送されて療養した▼この戦争で、多くの画学生が志を果たせないまま戦死していった。一方、野見山さんは戦地に赴きながら生き残った。絵筆を奪われて戦場で死んでいった画学生に対し、野見山さんは罪の意識を抱き続けた。画学生の遺族たちを訪ね、遺作と向き合うようになる。出征前に、家族や恋人を描いた絵には、平和に暮らしたいという切なる願いがにじんでいた▼おりのように、野見山さんの心に沈む戦争体験。決して消えはしなかった。亡くなる3年前に描いた「みんなウソ」。このタイトルは何を意味しているのか。いつ惨劇が繰り返されるかもしれないことへの不安…。戦争に対するいろんな思いが込められているのだろう。

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