初夏の夜の晩酌は楽しい。自宅庭の草木が勢いよく茂っていくにつれ、虫の音も聞こえるようになってきた。窓を開け、さわやかな風を感じながら、夏の雰囲気を演出する沖縄出身のアコースティックバンド、ビギンの曲を流す。ほろ酔い気分になりながら、ある言葉を思い出した。「酒は適量ゆっくりと」▼世界最長寿記録を持っていた故泉重千代さんの「長寿十訓」の一つだ。泉さんが生涯暮した鹿児島県伊仙町(徳之島)のホームページに、その十訓が紹介されている。飲食に関するものは、もう一つあり「腹八分めか七分がよい」。「目ざめたとき深呼吸」「自分の足で散歩に出よう」と、体調の整え方も伝授。そして、精神面にも触れる。「万事くよくよしないがよい」▼十訓を読みながら「ブルーゾーン」という言葉を思い浮かべた方もおられるのではないだろうか。世界5大長寿地域を指す国際的な呼称で、日本の沖縄も含まれている。泉さんと同じような酒に関連する健康習慣がこの五つの地域にないか調べてみると、イタリアにあった。地中海に浮かぶサルデーニャ島。やはり適量の赤ワインが飲まれており、この地のワインは抗酸化作用などがあるとされるフラボノイドが多く含まれているという▼沖縄で、健康な長寿者が多いとされるのが本島北部にある大宜味村だ。島野菜や大豆といった植物性食品を主体にした健康的な食習慣があり、これに加えて地域コミュニティーを大切にしていることが長寿につながっているとの指摘がある▼泉さんの十訓に「やることを決めて規則正しく」というのがある。コミュニティーがしっかりした地域は、住民一人一人が地域で果たす役割を自覚し日々の生活を送っている。生気がみなぎってくるのも当然だろう。もう一つ、十訓から。「誰とでも話す笑いあう」。きっと、百歳まで生きられる。そんな気分にさせてくれる教えだ。
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