【糸島市】農産物直売所の品ぞろえ影響

漬物販売許可制移行から経過措置終了

設備投資や高齢化で出荷減少

 安心安全な漬物を提供するため食品衛生法が改正され、2021年に漬物販売が許可制に移行、3年の経過措置を終え、6月から漬物販売は保健所の「営業許可」を得なければできなくなった。新たな設備投資が必要な生産者などが高齢化などを理由に出荷をやめ、多様な生産者によって支えられていた農産物直売所の漬物コーナーの品ぞろえに影響が出ている。

個人の出荷者が漬物を並べていたコーナー

 糸島保健福祉事務所によると、漬物製造で届け出があった約100件の内、これまでに許可を取得した事業者は約50件と半分程度。法の厳格化により、自動水栓の設置や住宅と加工施設の分離などの基準を満たす必要があり「改築の負担などもあるし、昔ながらのやり方をしてきたからもうついていけない」。野菜を出荷する傍ら、自宅納屋などで漬物を作っていた個人の出荷者などは販売を断念した人も多く、市内の直売所の担当者は「売り場がさみしくなった」と話した。

 こうした流れを受け、市では担い手育成対策事業費として、漬物加工施設の新設、改修に補助金を使いやすいよう6月定例市議会で補助金を増額する補正予算案を上程した。経営面積が10アール以上、農産物の出荷額が年間15万円以上などの要件を満たす販売農家を対象に、新設や改修の経費の2分の1について、個人は上限50万円、3人以上のグループは新設の場合は同200万円、改修の場合は同100万円までを補助するという内容。

 担当者は「許可取得には具体的にどのような要件を満たさないといけないかは保健所対応となるが、迷っている方はまずは相談に来てほしい」とした上で「その人にしか出せない味があり、その味を求めるお客さんがいる。伝統の味を子どもたちにも受け継いでいってほしい」と話していた。

漬物の共同加工所整備

「雉琴の市」の取り組み

 糸島市飯原の農産物直売所「雉琴(きじこと)の市」では、併設の加工所の改修を急ピッチで進め、漬物製造の営業許可を取得した。これまで各家庭で漬けたものを同店に出荷していた生産者は、今後は同施設を利用し、漬物製造を続ける。

季節の野菜が並ぶ店内。奥が共同の加工所となる

 同店では、4、5人の生産者が高菜、たくあん、キャラブキ、白菜漬けなど季節を通してさまざまな漬物を並べる。福岡市西区から毎週買い物に来るという女性は「キャラブキなどは家では作れない味。毎年楽しみにしており、これからも買えるのでよかった」と笑顔を見せた。

 法改正を機に「漬物はもう出さんめーか」とつぶやく高齢の生産者に、店主の西玉枝さん(75)が同店の加工所を共同利用することを提案した。「幸いにも大規模改修の必要はなかった」と安堵の表情だが、外からの出入り口や手洗い水栓の整備などかかった費用は約20万円。「直売所に並ぶ野菜と同じで、家庭の味として個人が作る漬物には、それぞれの味わいがある」と一肌ぬいだ。「『孫にお小遣いをやりやすい』と皆さん楽しみに作って販売しているし、上手な人の味はやっぱりまねできないし、やれることはやりたい」と力を込めた。

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