糸島市二丈の福井海岸で「タコブネ」を見つけたという話が本紙14日号の「『おむすび』にエール‼」で触れられていたのを読み、思わず懐かしさがこみあげてきた。アンモナイトをイメージさせる、らせん状の殻をもつが、実はタコの一種。記事では、殻からニョロっと足が出ていて驚いたそうだ▼かつて、唐津湾の砂浜で、このタコの仲間、アオイガイ=写真=の殻を探すのに夢中になったことがある。タコブネよりも大きく、殻の大きさが25センチになるものも。殻は白く、美しい波模様を浮かび上がらせ、水につけると、透けてみえるほど薄い。休日、砂浜を散歩していたとき、波打ち際に打ち上げられたその殻を見つけてとりことなり、休みのたびにその浜に通うようになった。一つも見つからない日が多かったが、二つ、三つと拾い上げ、嬉々として砂浜に足跡を残していったことも▼図書館で「世界一わかりやすいイカとタコの図鑑」を見つけ、紐解いてみた。アオイガイは海底に降りることなく一生を泳いで暮らすのだという。殻を持つのは雌で、この中に卵を産む。殻は卵嚢(らんのう)として卵を保護する役割を果たしている▼もう一つ、アオイガイについて興味深い話を見つけた。福岡市博物館の解説リーフレット(いきもの文化誌-海の巻)によると、殻の中で卵がふ化するまで育てる習性にあやかり、福岡では、安産を願う「子安(こやす)貝」という呼び方がある。博多湾沿岸部では昭和20年代まで、この殻に水や湯を入れて出産中の産婦に飲ませていたという▼調べれば、調べるほど、砂浜を引き立てるオブジェのようなアオイガイに再び出合いたくなった。ただ、この前、海辺を歩いたのはいつのことだったろう。まずは、ゆとりを取り戻さねば。
目次