【糸島市】ドクター古藤の園芸塾Vol.76(6/14号掲載)

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農業の進化

 新たな仕事場で2カ月経過いたしました。おかげさまで、沖縄県を含め九州全県を訪問し、各地の農業の現場や課題を直接見聞でき、今後の活動の指標となりました。

 やはり、現場の声は、第一次産業の厳しさである、生産人口の高齢化と後継者不足。全国的に課題となっています。各自治体、JA、地域、企業などいろんな知恵を絞って、課題解決を探っておりますが、変化のスピードが速く、解決には時間がかかりすぎる大きな問題であるといえます。

 その中で、農業技術進歩のすごさには驚くことばかりです。今回は、今が作業ピークであるお米作りについてご紹介いたします。

 今から五十数年前のお米作りは、水田で苗を育て、大きく育った苗を両手の指で輪っかを描いたくらいで束ね、その苗を新たな田植えをするところに放り投げていました。苗を拾っては、正確に植え付けるため、マーカー入りの綱(田植え綱)を張って、丁寧に1株3~5本を手植えしていました。

昭和30年代の田植え(糸島新聞1958年6月28日号)

 その後、二条植えの田植え機が普及し、植える苗も、各家庭で赤土や焼いたもみ殻などをブレンドした種まき培土を木箱に入れ、播種し何段も積み重ね、湿度を高くし温度を上げるため、たっぷり水分を含んだむしろをかけ、ビニールで覆い、発芽させ、何日もかけて育苗していました。

 その後、田植え技術はどんどん進化し、歩行型田植え機から乗用田植え機に変わり、田植えの労働性が大きく飛躍していきました。

 今では、広い栽培面積をカバーする大型田植え機は、GPS機能を搭載し、位置を把握し自動操縦で田植えをしていくほど進化しています。

 さらに進んだ技術として、お米作りの作業軽減目的に、ドローンを使った湛水直播という栽培技術が確立されようとしています。水田栽培が大きくなるほど、栽培の課題が育苗です。面積が広くなるほど、苗数が多くなり、育苗中の散水や管理、定植時の苗移動など田植えにとっては、大きな作業負担となってきています。

 そこで、特殊加工された水稲種子をドローンで直接、田んぼにまくことで、負担が大きい育苗をすることなく、稲が育ち、収穫量も変わらない新たな栽培技術です。私もその現場に初めて立ち会う機会であり、ワクワクしていました。
 元肥を入れ代かきをし、ほぼ均一に平らに慣らされた田んぼの上空をラジコン操作によって、水面から約3メートルの高さをドローンがゆっくり水平移動しながら、種をまいていきます。

ドローン散布風景

 安全のため、ドローンから離れたところにいないといけませんので、どこに種が落ちているのか、よくわからないのですが、近寄ったときにジーっと見るとパラパラと種が飛んでいるのが見えるくらいです。10アール(1000平方メートル)の面積で種まきスタートから終わりまで約5分。あっという間に種まきが終わり、次の田んぼへ移動。これが最新栽培技術かと驚きです。

 その後は、水管理を中心に発芽からの生育管理、除草対策などを行って、生育を見守っていかれるそうです。弊社としても専用の水稲種子コーティング技術(リゾケア®XL)を持ち合わせているので、知見を増やし、普及に努めていくところです。半世紀前のお米作りは、手植えが主流でした。今ではスマート農業へと変化しています。

ドローンにリゾケア種子を挿入している風景

 皆さん、わが国の食料自給率をご存じですか。2022年度のカロリーベースで38%と農水省が発表しています。20年の統計ですが、世界各国の自給率は同じカロリーベースで、カナダ221%、オーストラリア、アメリカと続いてフランス117%、ドイツ84%と先進国は自国の食料をいかに大切にしているかがわかります。国全体で、農業技術の進化とともに自給率が向上することを心から願っています。

 (シンジェンタジャパン・アグロエコシステムテクニカルマネジャー 古藤俊二)

※糸島新聞紙面で、最新の連載記事を掲載しています。

古藤 俊二さん
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この記事を書いた人

1917(大正6)年の創刊以来、郷土の皆様とともに歩み続ける地域に密着したニュースを発信しています。

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