泥に足をとられ大はしゃぎ
「うわぁ、ぎゃぁ!」。梅雨の晴れ間で温められた田んぼに足を踏み入れた中学生たちが、言葉にならない声をあげた。糸島市の福吉中学校(河野恭一校長)で19日、全校生徒76人による田植えが行われた。実習田として借りた約1反の田んぼに生徒たちが並び、泥に足をとられながら苗を植えた。生徒の歓声が響いた田んぼには、1時間ほどの作業の後、あちらこちらを向いて整然と並ぶ苗が、涼やかに風に吹かれていた。
全校での田植えに続き、秋には稲刈りや餅つきを行う一連の行事は、地域の協力を得て35年続いている。当時のPTA会長だった加茂正嗣さん(75)が田んぼを提供し、田植え後の水管理や除草作業をサポートしてきた。加茂さんは現在も変わらずサポートを続けている。
苗床で青々と育った苗は、1年生がモミをまき、毎日水やりをして育てたもの。「苗は5本ずつ。泥ん中にしっかり入れこまんばいかんばい」という加茂さんの指示を聞きながら、生徒たちは植えては後退し、作業を進めた。真っ白だった体操服は、次第に飛び散った泥土や友人がつけた手形などで泥アートに染まり、「耳に泥が入った!」「尻もちついた!」とにぎやかに作業が進んだ。
ニコニコと見守るPTA役員らは、唐津市浜玉の諏訪神社にマムシ除けの砂をもらいに行き、子どもたちがかまれないよう田んぼの周りにまくなどして事前準備。会長の宮武光一さんは「なんなら保育園から小中とずっと同じメンバーで、全校生徒がまるできょうだいのよう。保護者にも卒業生が多く、田舎ならではの地域のつながりを今後も大事にしていきたい」と話した。一緒に見守る河野校長は「教室で見るより生き生きとした表情をしている。保護者や地域の人たちの支えがあって、素晴らしい経験ができている」と感謝した。
最後まで熱心に田植えをした3年生のカラン・あめりあさんは、みんなでする田植えはこれが最後と声を詰まらせながらも、「田んぼに裸足で入るまでは躊躇(ちゅうちょ)するけれど、入ったら楽しい。達成感があった」と充実の笑顔を見せた。
35年間、生徒たちの田んぼ実習をサポートしてきた加茂さんは、「そろそろバトンを渡したい。引き続き、子どもたちの実習田を引き継いでくれる人がいてくれたら」と話した。