【糸島市】飲酒運転撲滅 命の像に誓い

目次

モニュメント完成 遺族ら思い込め

三弥子さんらモチーフに  —グローカルホテル—

 飲酒運転撲滅への強い決意を表し、命の尊さを伝えるモニュメントの建立記念式典が22日、糸島市泊のグローカルホテル糸島で開かれた。飲酒運転事故の被害者遺族や関係者ら約180人が出席する中、除幕式などが行われ、悲惨な事故の記憶を忘れることなく、飲酒運転ゼロを目指すことを改めて誓った。

関係者による除幕式

 同ホテルの敷地内に設置されたモニュメントは、同市の大庭茂彌(しげみ)さんの次女三弥子さん(享年21)をモチーフにしたブロンズ像。三弥子さんは1999年、鳥取県内で軽乗用車を運転中、中央線をはみ出してきた飲酒運転の車に衝突され、亡くなった。粕屋町で11年、飲酒運転の車にはねられて命を落とした山本美也子さんの長男寛大(かんた)さん(享年16)の愛犬こゆきちゃんの像もある。

大庭三弥子さんをモチーフにしたモニュメントが完成
三弥子さんを見上げるこゆきちゃんの像

 モニュメントが建立されているのは、飲酒運転の被害者遺族らが、亡くなった家族に思いをはせながら、ヒマワリを植えている場所。ホテルを経営するセトルの一尾泰嗣社長が、悲劇の記憶を風化させることなく、目に見える形で後世に伝えていくため、大庭さんにモニュメントの建立を提案し、実現した。

 記念式典では、飲酒運転事故の被害者に黙とうを捧げた後、同式典実行委員会会長の月形祐二糸島市長が「飲酒運転撲滅のためには、事故の悲惨さ、亡くなられた人や残された家族の悲しさを一人でも多くの人が自分事として、心にとどめることが大切。糸島から飲酒運転撲滅の思いを日本中に届けたい」と決意を新たにした。

 同式典実行委員会副会長の一尾社長は「飲酒運転の被害者も加害者も出さないよう、事故を風化させなよう、モニュメントを制作していただいた」と語った。 来賓の岩下剛県警本部長は5月末現在、県内で47件の飲酒運転事故が発生し、前年同期比13件増となっていることに触れ、「県民の願いである飲酒運転事故ゼロにはほど遠い状況と言わざるを得ない。飲酒運転の徹底検挙に努め、飲酒運転を許さない社会環境づくりに取り組みたい」と強調。

 生嶋亮介副知事香原勝司県議会議長のあいさつに続き、いのちのミュージアムの鈴木共子代表理事は「このモニュメントの存在を多くの人に知っていただいて、飲酒運転撲滅への決意を多くの人と共有したい」と願った。

 飲酒運転撲滅宣言では、九州大の島一輝さんと平蒔温(しおん)さんが「飲酒運転は絶対しない、させない、許さない、そして見逃さない」とメッセージを伝えた。

 降り続いた強い雨も、除幕式のころには小雨となり、実行委員と来賓が協力して綱を引き、モニュメントがお披露目された。記念碑を制作した彫刻家、片山博詞さんが作品に込めた思いを語り、大庭さんと山本さんが記念講演を行った。

 ホテルのロビーでは、九大フィルハーモニー・オーケストラのメンバーが演奏する中、「メッセンジャー」と呼ばれる飲酒運転事故の犠牲となった人たちの等身大パネルと遺品の靴を並べた「生命のメッセージ展」も開かれた。

ロビーで行われた「生命のメッセージ展」

 参加者たちがパネルの前で足を止めては、二度と悲しい事故を繰り返さないよう心に誓い、子どもを連れて参加した女性は「改めて命の重さを感じました」と話していた。

「いのちのつながり」大切に

彫刻家の片山さん 思い継承を

 「いのちは輝き、つながる」-。22日に除幕式が行われた飲酒運転撲滅モニュメントは、彫刻家の片山博詞さん(60)=福岡市中央区=が「いのちが守られ、人間の尊厳が大切にされる世の中になってほしい」との切なる願いを込め、制作した。それは、飲酒運転事故の犠牲となって肉親を失った大庭茂彌さんと山本美也子さんが訴え続けてきた思いそのものだ。

 ブロンズのモニュメントは、大庭さんの次女三弥子さんと、山本さんの長男寛大(かんた)さんの愛犬こゆきちゃんをモチーフにしている。片山さんは、制作の依頼を受けた当初、いのちの重さと向き合うテーマを、どう表現したらいいのか、構想がなかなか、まとまらなかったという。

大庭さんや山本さんらと、モニュメントの前で記念撮影する片山さん(右)
「みんなで一歩一歩進む」

 モニュメントのイメージが生まれるきっかけとなったのが大庭さん夫婦と山本さんに会い、犠牲になったわが子への思いを直接聞いてからだ。自然を生かした公園づくりに関わりたいとの夢を抱いていた三弥子さん。大庭さんは「『お父さん、がんばってる?』と、娘がいつも声をかけてくれているように感じる」と片山さんに話し、タンポポの種を吹く三弥子さんの写真を見せてくれたという。

 片山さんは、タンポポを吹く写真を見て「いのちがつながる大切さ」を感じ取り、その思いが広がれば、悲惨な事故を引き起こす飲酒運転はなくなるという大庭さんの信念に触れた。山本さんからは、寛大さんの仏前からいつまでも離れようとしない、こゆきちゃんの話を聞き、深い愛情もまた、「いのちのつながり」だと、心に刻み込まれたという。

 三弥子さんのモニュメント(高さ1・2メートル)は、右手を差し出し、何かを与えているようでもあり、受け取っているようにも見える。腰を掛けているのは、空に浮かぶ雲のようであり、生命を優しく包み込む繭(まゆ)にも思える。2羽のハトがそばにとまり、三弥子さんとともに犠牲になった2人のいのちを表している。

 こゆきちゃんは、三弥子さんの姿に寛大さんを重ね合わせるかのように見上げ、いまにも三弥子さんのもとに駆け寄っていきそうなしぐさをしている。

 モニュメントのある広場には、大庭さんが栽培したヒマワリの畑と、安山岩の腰掛け石も。実は、この石は磨き上げの途中。片山さんは「モニュメントの設置で終わるのではなく、地域の子どもたちに、これからもヒマワリを育て、石を磨いていってほしい。いのちがどんどん輝く場にしてもらえたら」と、飲酒運転撲滅の思いが受け継がれ実現するよう願いを込めながら話した。

「みんなで一歩一歩進む」

娘を失った大庭さん講演

 娘の三弥子が、飲酒運転の犠牲となって今年の12月で25年になります。他県の大学に通っていた娘から「みかんちぎり手伝いに帰るからね」と言われていたので、「いつ帰るんやろね」と妻と話した夜でした。1時間後に事故の知らせがあり、夫婦で現場まで飛んでいきました。娘たちに非はなく、飲酒運転のドライバーによる事故だったと聞かされ、妻はその場に泣き崩れました。

 「あの夜、もし電話をしていれば事故に遭わなかったかもしれない、もし近くの大学にやっていれば…」と後悔ばかりの日々を過ごしました。それから2年後、同じ遺族の方に誘われ、生命のメッセージ展に参加しました。強く感銘を受け「ぜひ地元でも開催したい」との思いを、行政や学校ぐるみのサポートで2007年、娘の母校である前原小学校で実現しました。

「今生きとうことが一番幸せ」と語りかける大庭さん
「加害者つくらない社会へ」

 さまざまな場所で講演をする中、子どもたちに話す機会も多いです。「大人になったら、お酒を楽しむこともあるけれど、絶対飲酒運転はしない、そして家族から加害者を出さない、それが大事」と伝えています。「大人になって子どもができたら教えます」「警察官になって飲酒運転を取り締まります」との子どもたちの言葉に、明るい未来への希望を感じます。自分たち遺族が講演をするだけでは効果は限られます。みんなで力を合わせて一歩一歩進んでいきたいです。

 モニュメントがある場所は、以前我が家があった場所の目の前。モニュメントとして立体的によみがえった娘の姿に言葉にならない衝撃を受けました。この地から、これからも飲酒運転撲滅を発信していきたいと気持ちを新たにしています。

「加害者つくらない社会へ」

山本さん「ゼロ」ポーズで訴え

 このたびはこの自然豊かな糸島にすてきなモニュメントを建立していただき、遺族として心より感謝します。我が家で飼っていた柴犬、こゆきちゃんのモニュメントも命が吹き込まれたようにそっくりで、涙があふれそうでした。

 「ひまわりを植える遺族の会」で大庭さんたちと一緒に活動してきましたが、私たち遺族も少しずつ年を取ってきて、グッドタイミングでモニュメントのお話をいただきました。お空の皆さんからたくさん応援をいただいているんだろうなと思っています。

 息子の事故は、2011年2月9日。夜中に「息子さんが事故に遭いました。即死です」と警察から連絡を受けました。飲酒運転の車にはねられた、と。ただ「歩道を歩いていたようです」と言われ、ちょっとだけほっとしました。親の言うことも聞かない頃の16歳の子が、人生の最後にちゃんとルールを守っていたのはすごい、って。ルールを守らなかったのは、そう、私たちのような大人です。

 裁判を経て、加害者の懲役が14年という判決を息子の同級生たちと聞いた時、あまりに悲しくて泣きました。その時一人の男の子が言ったのが「おばちゃん、被害者を出さないのは当たり前。でも本当に大事なのは加害者をつくらないこと」。本当にそんな社会にしなければいけないと、スッと胸のつかえが取れました。

 飲酒運転をなくすには、教育が一番大事。今は関係ないと思っている子どもたちも、大人になればお酒を飲む、車に乗るようになる。その前に飲酒運転は犯罪なんだと知ってほしいです。

 私は講演の最後にいつも、皆さんから元気をいただくようにしています。私の後に続けてください。せーの、「今日お越しの皆さまと目指すのは!」(声を合わせて)「飲酒運転ゼロ!

参加者と「飲酒運転ゼロ」ポーズをとる山本さん
犯罪行為 絶対に許さない

犯罪行為 絶対に許さない

九州大学大学院工学府修士2年 島 一輝さん

 県内の飲酒運転による検挙者数を確認すると、かなり多く、また、コロナ禍以降は、増加傾向にあるとのことで、「まだ、飲酒運転をしている人がいるのか」と、すごく驚くとともに、悲しい気持ちになります。

 自分だけは飲酒運転をしても大丈夫、少しの距離だから大丈夫、事故を起こすはずがないとの軽い気持ちが事故の原因となり、亡くなる方もいらっしゃいます。

 九州大学で学びながら、留学生やいろいろな方々と交流があり、二十歳を超えた私たちは、お酒を飲む機会もあるし、車も運転します。今日の宣言にあたり、大庭さんや山本さんのご家族の事故やその後の啓発活動のことを聞いて改めて強く感じました。「飲酒運転は重大な犯罪行為であり絶対に許せない」。少しの気の緩みが、大きな事故につながることを改めて自覚し、周りの仲間にも伝えていきたいと思います。ここで、改めて宣言します。

 飲酒運転は絶対しない、させない、許さない、そして見逃さない

小さくてもできる行動を

九州大学理学部3年 平 蒔温さん

 私たちは小さな頃からテレビのニュースや学校の授業などで、飲酒運転の危険性や恐ろしさなどを見聞きし、それが自分だけでなく、家族や友人、多くの人を巻き込んでしまう愚かな行為だということを学んできました。私たちは今、20歳を超え、飲酒も運転もできる年齢になり、より一層飲酒運転の恐ろしさを身近に感じるようになりました。

 飲酒運転をしても事故をしなければ大丈夫、ばれなければ大丈夫だというほんの一瞬の愚かな油断で、大切なものを失ってしまうかもしれないし、他人の大切なものを奪ってしまうかもしれません。私たち一人一人が、他人の命を思いやる気持ちを持てば、飲酒運転という行為は無くなるはずです

 飲酒運転撲滅への第1歩として、まずはこの記念式典に参加した私たち一人一人が、命の大切さや事故の危険性を考え、飲酒運転撲滅の機運を高めていくために小さくてもできる行動を進めていくことが大切だと思います。「飲酒運転は絶対しない、させない、許さない、そして見逃さない」をスローガンに、今のこの思いを1人でも多くの人に伝えていき、飲酒運転のない明るい未来を実現したいと思います。

力強く飲酒運転撲滅を宣言する大学生
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この記事を書いた人

1917(大正6)年の創刊以来、郷土の皆様とともに歩み続ける地域に密着したニュースを発信しています。

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