【糸島市】ママライタ―の『糸島で見ぃつけた!』 ——大好物囲んで笑顔いっぱい広がる孫とおばあちゃんの「お結び」料理——

 「食べることは、あなたの未来をつくること」。そんなメッセージが込められ、今秋スタートするNHK連続テレビ小説「おむすび」。平成の糸島を舞台の一つにし、「食」をテーマにしている。このドラマと同様、食への思いを大切にし、孫と祖母たちをつなぐ家庭料理が糸島にある。取材をしてみると、祖母だけでなく、祖父、曽祖母も加わり料理の腕を振るう場面もあり、孫たちの大好物を囲んで、多世代の笑顔がいっぱい広がった。おばあちゃんたちの暮らしにも触れながら、お腹も心も満たす「お結び」料理をママトコラボ取材班が紹介する。

4世代の大好物「唐芋団子」

二丈深江の渡邉シゲ子さん家族

 サツマイモを使う熊本の名物といえば「いきなり団子」を思い浮かべる人も多いかもしれないが、熊本出身の渡邉シゲ子さん(93)=糸島市二丈深江=が作るのはそれとは中身も形も異なる「唐芋団子」。材料は、サツマイモと砂糖と小麦粉のみ。ゆでたサツマイモをつぶして半量ずつに分け、一方は砂糖と混ぜて餡(あん)にして、もう一方は小麦粉と混ぜて生地にする。生地に餡を包んで、蒸したらできあがり。

唐芋団子を持って。左からシゲ子さん、花奈さん、美保子さん

 食料があまり豊富でなかった戦後、近所の農家の方がサツマイモを持ち寄り、よく作っていたという。そして今もサツマイモが多く手に入ると、シゲ子さんは慣れ親しんだその味を家族にふるまっている。

息の合ったリズムで餡を包むシゲ子さんと美保子さん

 小さい時からこの「唐芋団子」を食べてきた娘の古藤美保子さん(64)。今はシゲ子さんと一緒に作る側だ。

団子を割るとサツマイモ餡がたっぷり

「芋、大好きやもんね」とシゲ子さんに微笑む美保子さん。シゲ子さんは「餡をたっぷり入れたら食べる時が楽しみでしょ」と茶目っ気ある笑顔を見せ、慣れた手つきで餡を多めに包んでいく。大量に作り、一部は冷凍したり、昔はみそ汁に入れて食べたりもしていたという。

 2歳頃から唐芋団子を口にしているひ孫の川口花奈さん(10)は「甘くておいしいから好き。昨日は2個食べた!」と話した。今年の父の日も、家族4世代が集まり、唐芋団子を囲んで和気あいあいと過ごした。

大好きな唐芋団子を頬張るシゲ子さんのひ孫たち

 (クレマデス海上愛)

自家製野菜を使った「肉じゃが」

志摩馬場の廣川芳子さん家族

 糸島市志摩馬場の廣川芳子(みちこ)さん(64)は農業を営みながら、2019年から4年間、JA糸島女性部長を務めた。コロナ禍で糸島でも食に困っている人がいると知り、21年秋から規格外の野菜や寄付された食品を子ども食堂や困窮世帯、九大生へ配布する「フードパントリー」の取り組みを開始。他にも「子どもたちに自立する力を身につけてほしい」と、農業や料理を体験できる「キッズスクール」などのさまざまな食育活動を行っている。

畑でジャガイモの収穫を手伝う孫たち

 廣川さんの3人の孫は福岡市早良区から月に1回程度遊びに訪れる。孫たちは、廣川さんが作る肉じゃがが大好物。圧力鍋で作るのでジャガイモはしっとりと柔らかく、旨味がギュッと染み込んでいる。孫の赤司暖十郎くん(7)莉麻(りま)ちゃん(2)は食卓に手料理が並ぶと「おいしい」と、どんどん口へ運ぶ。よく料理の手伝いをするという美心(みこ)さん(9)は「今度、肉じゃがの作り方を教えてほしい」と廣川さんに頼んでいた。

孫と一緒に作った野菜たっぷりの手料理
自家製野菜を使った肉じゃがと廣川芳子さん

 廣川さんの畑ではジャガイモやサツマイモ、オクラ、トウモロコシなどさまざまな野菜が作られ、孫やその友達を連れて一緒に収穫することもあるという。「どうやって野菜ができるかを知り、生産者の方へ感謝し食べることの大切さを伝えていきたい」と、廣川さんは孫たちを見ながら穏やかな表情で語った。

廣川さんの膝に座る、野菜が好きな莉麻ちゃん

 (村上和世)

「全部好き!」からだと心を育む手料理

南風台の高橋美和さん家族

 糸島市南風台に住む高橋美和さん(58)は、約25年前に福岡市内から糸島に引っ越してきた。校区の住宅開発が進んだ当時、子ども会の立ち上げや、南風小学校のPTA準備委員会、役員を務め、15年ほど前まで自宅で手作りパン教室を開いていた。

おいしそうなサンドイッチを手にする高橋さん

 「昔は子育てに必死で意識していなかったけど、今思うと昔から料理が好きだったんだなと思います」と優しく笑う高橋さん。現在はパンやケーキ以外にも、みそ、梅干し、奈良漬などの手作りも楽しんでいる。

普段は和食が多く、伊吹くんも好き嫌いなく食べてくれるそう

 孫の秦伊吹くん(6)まりかちゃん(1)は、高橋さん宅の近くに住んでおり、平日は仕事帰りの母親が迎えに来るまで、高橋さん宅で夕飯を食べながら待つ。今日のメニューはナポリタンとスープ、高橋さんが手作りしたパンに、夫の弘人さん(60)が庭の畑で作ったキュウリとサラダ菜を挟んだサンドイッチ。

ふわふわのパンに畑の無農薬野菜を挟んだサンドイッチ

 「食が体をつくり、心をつくると思うので、簡単でも手作りのものを。孫には食べ物は粗末にしないようにと伝えています」と話す高橋さん。伊吹くんはキュウリが大好きで、友達と畑のキュウリを食べていたというかわいらしいエピソードも。

伊吹くんとまりかちゃん。2人ともおいしそうにもりもりと食べていた

 元気いっぱいの伊吹くんからは「おばあちゃんのご飯は全部おいしい!ナポリタン、パン、唐揚げ、ひじき…」と好きなメニューがどんどんあふれ出て、日頃から高橋さんの豊かな食で満たされている様子がうかがえた。

 (柳詰紘子)

受け継ぎ伝える「具寿司」

姫島の松尾輝子さん家族

 糸島市・姫島に住む松尾輝子さん(61)は浦志から嫁いで39年。漁師の夫息子夫婦孫の蒼依(あおい)さん(中学2年)翠来(みら)さん(小学5年)樺夏(かな)さん(小学2年)の7人家族で毎日にぎやかな食卓を囲む。

具寿司、寒天、ひじき煮は、どれも3姉妹の大好物

 孫3人の大好物は輝子さんのサバの具寿司(ぐずし)。ほぐした焼きサバ、シイタケ、ゴボウを甘辛く煮て酢飯と合わせる、盆や正月に定番の姫島伝統の味だ。

優しい甘酢の香りがキッチンに広がる

 「義母から受け継ぎ、酢の薄め方や砂糖の量を自分なりに工夫した」と話す輝子さん。今では、近くに住む親戚にもリクエストされる得意料理だ。実は、蒼依さんはシイタケ、樺夏さんは焼き魚が苦手だが、「おばあちゃんのお寿司だとおいしい」と頬張る。孫たちの姿に、輝子さんは「作りがいがある」とほほ笑み、「次の世代にも伝えていけたら」と話した。

彩り鮮やかなサバの具寿司を手にする松尾輝子さん

 季節の食も孫たちと一緒に楽しむ輝子さん。翠来さんは「家族で芋掘りして、おばあちゃんが天ぷら、お母さんが大学芋にしてくれる」と話し、樺夏さんは「餅つきで200個くらい作るよ」と、慣れた手つきで餅を丸める仕草を見せた。

野菜たっぷりのひじき煮と海藻から作る寒天も一緒に

 高校生になると通学のため姫島を離れる孫たち。パティシエを目指す蒼依さんに、輝子さんは「島を出ると大変と思うけれど、望む道に進んでほしい」と願い、「たまに島に帰ってくるときはお寿司を作っとこうね」と笑い合った。

 (牧野登志江)

旬の海の幸を使った「魚カツ」

姫島の吉村寿敏さん家族

 糸島市・姫島の吉村寿敏さん(63)は、糸島漁業協同組合を定年退職した後、市営渡船ひめしまの乗組員の仕事をするかたわら、自身の船で漁をしたり、野菜畑や果樹園の手入れをしたりと充実した日々を過ごす。妻の恵子さん(58)は、姫島小・中学校で給食調理員を26年務め「給食が学校に行く楽しみのひとつになるように」と思いを込めて、子どもたちのために給食を作り続けている。3人の娘の家族が遊びに来る際は、新鮮な姫島の食材を使い、夫婦でさまざまな料理を作る。

揚げたての魚カツを手に、やさしい笑顔の恵子さんと寿敏さん

 中でも孫たちに大人気なのが、旬の魚とイカのすり身に玉ねぎを混ぜ合わせ、姫島の旬を詰め込んだ揚げたての魚カツで、初夏はアオアジ、ヤリイカ、秋口になるとサワラやエソ、ミズイカやコウイカなど、季節によって食材が変わる。

みんなが大好きな魚カツ、アオアジの刺身、恵子さんの手作りみそで作ったスズキのみそ汁

 孫の馬場彩樺(いろは)さん(12)は「中のすり身がぷりっぷりで、味がしっかりしているから、何も付けずにそのままでおいしい!」とにっこり。両手で目を押さえながら「玉ねぎが目に染みてね」と咲良(さくら)さん(9)が魚カツを一緒に作った時の思い出を話した。

お友達と一緒にすり身を丸める彩樺さん(中央)、咲良さん(左隣)

 寿敏さんと恵子さんは「孫が旬の魚や野菜に慣れ親しんで、食材の本物の味を求めるようになったらいい」と、孫たちと畑の野菜や果物の収穫をして、次に一緒に料理をする日を心待ちにしている。

中までしっかり火が通るよう、中央の色が外側と同じキツネ色になる頃合いを見て魚カツを揚げる寿敏さん

 (澤野香織)

手料理で紡ぐ、人とのつながり

波多江の小笠原孝子さん家族

 「よう来てくれたね。唐揚げ、揚がりよるよ」と元気な声で出迎えてくれたのは小笠原孝子さん(79)。糸島市波多江に住んで50年、波多江行政区の区長を10年務め上げた経歴の持ち主。現在は娘夫婦と孫2人の5人暮らし。孫の都さん(9)隆悠(たかはる)さん(7)は、時々作ってもらう小笠原さんの手料理が大好き。中でも唐揚げが大好物だ。

「まだまだ揚げるわよ」と小笠原さん

 できあがるそばからひとつ、またひとつとつまみ食いされていく唐揚げを横目に、小笠原さんは「都は揚げたてだけ食べたいって言うの、ぜいたくよねぇ」と微笑む。

にゅにゅっと伸びる都さんの手

 ひと口大の鶏もも肉をしょうゆ、砂糖、みりん、おろしにんにくに漬け込み、冷凍庫で寝かせるのが小笠原さん流。ふっくら仕上げるコツは、漬け汁にすりリンゴの絞り汁と玉子を加えること。片栗粉オンリーの衣は歯ごたえサックサク。その美味しさは家族以外にもファンがいるほどだ。

子どもが食べやすいように1個が小さめ

 料理好きの小笠原さんは人からレシピを教えてもらうとすぐ実践し、たくさん作っては友人知人にお裾分けしている。区長を務めていた時も総会などで料理を振る舞い、喜ばれたという。

 「料理のことを考えるとね、それを食べている人の笑顔が浮かぶの。あの人、元気にしてるかな、お料理持っていこうかなって」と小笠原さん。「人とのつながりは宝。人に恵まれて今の自分があるから」。手料理を介して、孫に地域に笑顔の輪を広げている。

熱々の唐揚げを頰張る隆悠さん

 (吉川美咲)

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この記事を書いた人

1917(大正6)年の創刊以来、郷土の皆様とともに歩み続ける地域に密着したニュースを発信しています。

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