【糸島市】《糸島新聞連載コラム まち角》小さな命の重み

まち角アイキャッチ

いつもは、器に入った餌をきれいに平らげるわが家の飼い猫だが、餌を大量に残すことがある。めったにないことだが、そんなときは大抵、家の中に入り込んできた無数のアリが餌に寄り付き、せわしくうごめいている。食欲旺盛な猫も、さすがに食べるのをあきらめ、なすがままにしている▼実は、自宅のトイレにも最近、サッシの隙間からアリが行列をつくって入って来ていた。不可解なことに、アリたちのお目当てはトイレットペーパー。ロールの上をうろうろとしていた。メーカーのウェブサイトで調べると、アリのえさとなるものは含んでいないが、種類によっては、紙製品が営巣する環境と似ているため、寄って来ることがあるという▼家の中でアリが動き回るのは気持ちがいいものではない。ただ、夜中の出来事だったので、すぐに対処はしなかった。幸運にも、トイレットペーパーの上に群がっていたアリは朝になると、すっかり姿を消していた。何もせずに事態が解決し、ほっとした▼アリだけでなく、家の中にはゴキブリやハエ、カとさまざまな害虫がいる。もちろん、病原菌を媒介するため、人間には害がある虫ではある。ただ、それは人間を中心とした勝手な見方。害虫にしてみれば、人間は自分たちの命を奪う危険な生き物だ。だからといって、害虫を殺してはいけないとは言わない。ただ、害虫とはいえ、その命の重みを決して忘れてはいけないと思う▼江戸後期の禅僧、良寛さんにこんな逸話がある。夏の夜に蚊帳をつったとき、片足だけは外に出して寝たというのだ。さすがに蚊帳の中にいないと、全身を刺されて寝るどころではない。ただ、まったく血が吸えないのであれば、カは生きていけない。そこで、良寛さんは足だけを出す。すべての命は平等だと信じるからこそ、優しくなれる。アリに餌の器を襲われても、ただあきらめ、結果的にアリに餌を分け与える猫。その姿を思い起こしながら、小さな命の尊さを感じている。

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