【糸島市】ドクター古藤の園芸塾Vol.89(9/20号掲載)

ドクター古藤アイキャッチ

クズとの共存を宿題に

 皆さんも、日常生活の中で、こうありたいとかこうしたいなどの課題や宿題をお持ちと思います。個人的には、家族のこと、健康や将来のことなどたくさんありますね。私もいろいろ課題がありますが、その中で、地域のことについては、いくつかの個人的な宿題を持っています。その一つが、森林の生態。

 現在、私は糸島の自宅から福岡市中央区まで、都市高速バスで通勤しています。旧職は、近いなりにも自分で車を運転しての通勤でしたが、バスで往復通勤は、満席になったり、遅延したりはしますが、自宅から30分で会社に到着し、たいへん便利です。また、毎日、糸島と福岡市の間で変わっていく風景を見るのが大好きです。

 特にビルが林立する中央区天神の会社から、糸島に戻るとき、都市高速の周りは、どんどん緑の風景が広がり、自然の豊かさを実感いたしますし、おそらく、一般の方も、緑が多い町だなと思っておられるでしょう。

 ところが、よーく森林を見渡すと、緑が多く見えるのは、いろんな木々につるを伸ばして覆い繁っている、クズがほとんどです。防災用のフェンスや電柱、川土手などに、マントのように覆いかぶさる植物がつくる群落は「マント群落」とも言われています。

ミカンを覆いつくすクズ
開花前のクズの花

 クズは、マメ科クズ属つる性の多年草で、日本だけでなく、中国やフィリピン、インドネシアでも見られる植物です。日本では、古くから花が秋の七草の一つにも数えられ、万葉集等でうたわれたり、くず粉や漢方薬の原料とされたりするなど、日常に浸透している植物でもあります。

 しかし、人の管理下で育てられたクズは、役立つ植物として重宝されてきましたが、人の管理下を離れたクズは、強い繁殖力で、瞬く間に設備等を覆い、今では施設管理時のやっかいものとしてさまざまな場所で問題視されています

 果樹や植林木に巻き付いて著しく成長を阻害するため、生態系はもちろんのこと経済面でも大きな被害をもたらしています。

 私も川土手の草刈りをしますが、それは、それは、強い回転刃の草刈りでもつるがばねのように伸びたり戻ったりするので、なかなか切れません。切ってもすぐ、新しいつるが伸びてきて、大きい葉を広げていきます。どうにかして、クズから守らないと、きれいな森がクズだらけになってしまいます。

 私も草刈り以外に化学処方、有機的処方などの対策の試験をしています。化学処方は、製品も数種あり、ある一定の効果が認められます。環境に優しい有機的処方でできないかと、重曹や手作り分解酵素などを希釈散布しています。少し、葉色が黄変したので、これはいけると思ったのは束の間。あっという間に、元の葉色に戻ってしまいました。

 クズには解熱や解毒、下痢止めなどの薬効が知られており、くず根は有名な葛根湯の原料にもなりますし、クツワムシなどさまざまな昆虫のすみかとして重要な役割を担っています。人にとって有効なクズですが、半面、森を脅かす存在になっています

 失敗の連続ですが、今後もあきらめず、クズと共存できるようコツコツと宿題解決に努めたいと思っています。

 (シンジェンタジャパン・アグロエコシステムテクニカルマネジャー 古藤俊二)

※糸島新聞紙面で、最新の連載記事を掲載しています。

古藤 俊二さん
よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

1917(大正6)年の創刊以来、郷土の皆様とともに歩み続ける地域に密着したニュースを発信しています。

目次