【糸島市】《糸島新聞連載コラム まち角》野球の「美しさ」とは

まち角アイキャッチ

野球の「美しさ」とは、どんなものなのか。4年ぶりのリーグ優勝を決めた福岡ソフトバンクホークスを率いる小久保裕紀監督。就任1年目で、常勝軍団の強さを取り戻すという成果を上げた小久保監督が、チームに求めたのは「いかに美しくあるか」ということだった▼小久保監督が「美しさ」を口にしたのは昨年10月の就任会見だった。ホークスの2軍監督時代、テレビで1軍の戦いを見ていた時、違和感を覚えることがあったと明かした。9月24日付の西日本新聞朝刊によると、小久保監督は昨季、12連敗中のある試合を中継で見て強い危機感を抱いたともいう。延長戦で痛恨の本塁打を浴びたが、ベンチの選手たちはどこか緊張感のない表情を浮かべているように見えた。その姿に「美しさが欠けている」▼プレーの美しさという視点に立つなら、ファンを魅了した選手として思い浮かぶのが読売ジャイアンツで活躍した長嶋茂雄さん。打撃だけでなく、サードの守備でも「魅せる」ことを意識し、送球の後、右手をひらひらと打ち振ってみせた。自伝の「野球は人生そのものだ」によると、歌舞伎の花道で見得を切る時の所作を取り入れたという▼長嶋さんは、自伝の中で「私はファンあってのプロ野球を全身で意識していた」と明かす。ただ、長嶋さんの本質は、ファンには決して見せない、隠していたところにあった。「(私は)天才肌でもなんでもない、夜中の一時、二時に苦闘してバットを振っている」(同書)▼ファンに喜んでもらえる野球の美しさ。それを生み出すのは「動物的勘の男」と呼ばれた長嶋さんでさえ、精進努力するしかなかった。それを地道に続けるには、自分を厳しく律するための精神力が不可欠。小久保監督が選手たちに求めた「美しさ」とは、こうした精神面の強さではないだろうか。優勝の胴上げで宙を舞う小久保監督は、選手たちの心の進化を感じ取っていたことであろう。

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