【糸島市】ドクター古藤の園芸塾Vol.91(10/4号掲載)

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クズの葉の有効利用に挑戦

 9月20日付けのコーナーで、クズによる森林環境の変化について触れ、クズとの共存を宿題としました。何度失敗を繰り返しても、問題解決に挑むのは地域を思う気持ちから。生育調査や土壌の研究、講演のため、福岡、佐賀両県の各所を回るさなか、小高い山や奥深い森を見ると、やはりクズの繁殖がすごく、高い立木までツルを伸ばし、覆い繁っています。その深刻さをあらためて感じています。

 今回は、クズの繁殖を抑制する方法などは、ちょっとお預けし、クズの葉が何か役立たないかと挑戦してみました。

 まずは、クズの生態調査から。文献をいろいろ調べてみると、クズは、多年生のマメ科植物で、花や実を付けますが、種子による繁殖力は弱く、茎や根で増える「栄養繁殖」が主体です。「マメ科の王様」とも言われ、根に共生している根粒菌により、空中の窒素を、生体を構成する有機窒素化合物に合成しています。

 クズの成長が早いのは、こうした豊富な栄養を活用できることが背景にありそうです。加えて、地球温暖化も成長を促進させています。クズは植物のなかでも、二酸化炭素濃度に敏感に反応するとの研究があり、温暖化で冬が短くなったことに加え、二酸化炭素濃度が高まっていることも、成長スピードを速めている可能性があるということです。クズを調べれば調べるほど、すごい生命力を持ち、衰えを知らないことが分かってきます。

 葉の成分を調べてみると、抗酸化物質のベータカロテンはニンジンの約3倍、ルテインはホウレンソウの1.67倍と健康食品顔負けの素材です。クズの葉身の粗タンパク質は17.5%、牛の餌などになるイタリアンライグラス生草の13.7%よりも栄養価があります。そこで、堆肥化の試験にチャレンジしてみました。

 用意したのは、透明ポリ袋、クズの葉、ぼかし肥料(発酵肥料)、バナナの皮1本分、食べた後の納豆パック。方法は、ポリ袋8分目までクズを少し強めに押し込み、バナナの皮を少し細かくして入れ、ぼかし肥料を一握り(約40グラム)ふりかけ、食べた後の納豆パックに少し水を注いでから、その水を袋に入れる。

クズの葉の上に、細かく刻んだバナナ皮とぼかし肥料をふりかける
市販ぼかし肥料

 軽く振って袋の口を輪ゴムで軽く縛り、日当たりに置きます。すると、熱で袋の中が高温によって、水蒸気が発生。発酵が始まります。途中で袋を振ったりし、発酵分解を促します。

 今後、発酵の経過を見ながら、堆肥の完成を待ち、別の堆肥などとの植物による生育比較試験を行う予定です。

 クズのように、かつて盛んに栽培されながら、時代の変化とともに放置されたような種を「遺存植物」と呼ぶそうです。遺存種の多くは衰退していきますが、クズはその繁殖力の強さから、大繁茂して日本中で厄介ものになっています。

 しかし、縄文時代から長らく日本人の生活を支え、自然環境と調和してきました。こうした日本の自然文化遺産とも言える「クズ」を、単に邪魔者で排除の対象として捉えるのは残念なことです。うまく共存していく道を探りたいものです。

 (シンジェンタジャパン・アグロエコシステムテクニカルマネジャー 古藤俊二)

※糸島新聞紙面で、最新の連載記事を掲載しています。

古藤 俊二さん
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この記事を書いた人

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