タンポポの巧みな生き方
前回に続き、雑草の不思議な世界を紹介します。取り上げるのは、おとなしく育ってくれるタイプ。ほかの植物と競争を避けるため、とても巧みな生き方をしています。詳しく知ると、雑草に対する見方が変わってくると思いますよ。
おとなしく育ってくれる雑草の一つが「タンポポ」。在来のタンポポは、まだほかの植物が伸びてこない春先に花を咲かせ、綿毛(種子)を飛ばします。その後、気温の上昇に伴い、植物が生い茂る夏には、自ら葉を枯らした状態で過ごす「夏眠」状態になります。ほかの草が勢いを増す夏にはあえて戦わないという、「時期ずらし」の技をもっており、なかなかの巧者です。
一方、外来性のセイヨウタンポポ=写真=は、気候に関係なくほぼ一年中、花をつけ、種を飛ばしています。しかし、性格が比較的おとなしいので、夏草が生い茂るような場所では、ほかの植物との競争に勝てず、枯れてしまっているようです。
ですから、セイヨウタンポポは、競争の激しくない道端や新たに造成された雑種地などを選んで根を下ろすようになります。このため、街中では、夏眠をしないセイヨウタンポポを目にすることが多く、ニホンタンポポが劣勢のように感じてしまいます。しかし、郊外の自然の多いところでは、ニホンタンポポは「ずらし作戦」を駆使して、ちゃんと生き残っています。
セイヨウタンポポがニホンタンポポの勢力を抑えているわけではないということになります。ニホンタンポポが減っているように見えるのは、都市化によって、ニホンタンポポが生息するような緑豊かな場所が減っていることに問題があるのではないでしょうか。
「夏眠」していたニホンタンポポは、ほかの植物が枯れる秋から冬にかけて、再び葉を伸ばします。冬の間も葉を広げ、貴重な日光を浴び、光合成を行い、たっぷりとエネルギーをため込みます。そのエネルギーを使って、次の春も、いち早く花を咲かせます。ニホンタンポポは、日本の四季に適応し、確実に子孫を残しています。
植物も含め、生き物にとって、孤独な生育環境はかなりキツイものです。植物の場合、漁港や空港の周りで外来種が一時的に生えたとしても、たいていの場合、日本の環境になじめずに、すぐに消え去るとのことです。
実際には、在来種が有利な場合が圧倒的に多いのですから、そこを乗り越えた外来種は「強者」ということになるでしょう。外来種が「強い」というイメージは、そこから来ているのではないでしょうか。
強い外来種として挙げられる草がオオキンケイギクやアレチウリ=写真=など。糸島で言う「ひちこいか(しつこい)~この草くさ」「この草くさ、おうじょうこく(困り果てる)」なんておじいちゃんたちが話しているのは、きっと、たくましく生き延びた外来種の仲間なんでしょうね。
(シンジェンタジャパン・アグロエコシステムテクニカルマネジャー 古藤俊二)
※糸島新聞紙面で、最新の連載記事を掲載しています。