【糸島市】ドクター古藤の園芸塾Vol.111(3/7号掲載)

ドクター古藤アイキャッチ

郷土の財産「相知高菜」

 転職してから、もうすぐ1年が経過します。広域的な活動をすることができ、たくさんの農業情報もいただいています。熊本県の直売所出荷のおじちゃんは「うちの菜の花、うまかばい。あんばようピリッと辛くて、たまらんですばい」。大分県中津市のネギ生産のおばちゃんは「味一ねぎでネギしゃぶしてんしゃい。最高ばい」。味一ねぎは大分県のブランドネギ。各地の生産者は元気ですね。農業の底から湧くエネルギーを感じ、たくましく見えます。

 そこで今回は、福岡に近いところで作られている地域野菜を使ったその土地ならではの漬物を紹介します。

 先月、ご縁がありJAからつ「ファーマーズマーケット 唐津うまかもん市場」で出荷者向け講習会をさせていただきました。年間18.3億円(2023年度)の売上を誇り、野菜、果樹、佐賀牛、唐津産鮮魚など唐津の味を堪能できる元気な直売所です。

 豊富な品ぞろえの中、漬物コーナーで気になる特産品を発見。おいしそうな郷土特産「相知高菜漬」。素朴な色艶、シャキッと食感と程よい塩味が白ご飯と相性ばっちりとのこと。

 相知高菜は、昭和40年代まで唐津市相知町を中心に盛んに栽培されてきた特産野菜で、かつて佐賀県内に多くあった炭鉱の労働者をはじめ庶民のごはんのおかずとして一般的な漬物だったそうです。しかし、生産者は小ぶりな地元高菜より収穫量が多く、栽培しやすい大型品種の「三池高菜」の栽培へ移行し、相知高菜の生産は激減し、いつしか「まぼろしの高菜」と言われるようになったとのこと。

相知高菜
白ご飯によく合う味わい

 姿を消して、十数年経った頃、各地の伝統野菜や特産野菜が見直され、相知町の高菜農家の納屋から自家用の少量の種が発見され、その貴重な種を使って試験栽培を繰り返しながら採種。一定の収穫量が確保できるようになり、漬物の復活が出来たそうです。

 そもそも「相知町」の地名由来が、たくさんの川が合流するという「逢う地」から転じたもので、これは上流から栄養分を含んだ土が運ばれてくる肥沃(ひよく)な土壌がある土地という意味らしいです。すてきなお話です。豊富できれいな水と肥えた土で、大切に育てられた「相知高菜」。好条件そろった環境で育った原料の漬物は最高でしょう。

唐津市相知町は松浦川、厳木川、伊岐佐川の大きな川が合流し豊かな土壌に恵まれた地域

 絶滅の危機から、地元の有志の方々の努力で、復活したまぼろしの高菜。現代は、流通や貯蔵技術などが格段に向上しているため、大型スーパーの野菜売り場は、北は北海道から南は沖縄まで、季節に関係なくいろんな野菜が並べられ、冷凍庫をみると、すぐ調理できるサイズにカットされたホウレンソウやブロッコリーなどが多数販売されています。確かに便利になったとは思います。

 ただ、郷土特産の野菜は、地元の方々がこつこつと手間暇をかけて育て、土地ならではの味わいを受け継いでいます。時間や経費がかかるとはいえ、その伝統を守っていくために、ぜひ、たくさんの方々に応援していただきたいという思いです。これからも、おいしい「相知高菜漬」が味わえるよう願っております。

(シンジェンタジャパン・アグロエコシステムテクニカルマネジャー 古藤俊二)

糸島新聞ホームページに地域密着情報満載

※糸島新聞紙面で、最新の連載記事を掲載しています。

古藤 俊二さん
0
よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

1917(大正6)年の創刊以来、郷土の皆様とともに歩み続ける地域に密着したニュースを発信しています。

目次