アーティスト 大川 博

糸島は日本でいち早く稲作が行われた地の一つである。古代からの稲作文化と密接にかかわる祖霊信仰。桜はその中でも祖霊神の依(よ)り代(しろ)として位置づけられている。
祖霊は山に宿るとされ、桜の木が「稲霊」が宿る木として、その霊を迎える。祖霊神は春になると花とともに里に降りてくるという。桜には五穀豊穣(ほうじょう)をもたらす霊力があるとされる。
桜の花は美しく咲くが、満開の時期は短く、はかなく散っていく。そのさまが日本人の「無常観」に通じる。桜は四季の移ろう風土で生きる日本人の「人生の美しさとはかなさは表裏一体である」との価値観を象徴する。また、桜は春の訪れを祝う象徴でもあり「春を寿(ことほ)ぐ」花見が盛んに行われる。
桜が咲き誇る先には、ひろがりゆく海やそびえる山。これらは悠久の時を刻む自然の姿であり、桜のはかない美しさと合わさって「永遠と一瞬の調和」を感じさせる。そんな、桜越しに見る糸島の風景を描いた作品を通じて、ゆったりとしたときの流れ、人生のはかなさ、もののあはれを感じてもらえればと思う。
(アーティスト・大川博)
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大阪で育ち、京都で学び、東京で働く。縁あって、糸島の風景を描く。アート(視覚)、オーディオ(聴覚)、アロマ(嗅覚)を融合化し、没入感をより深める作品を、毎年個展で発表。
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