桜便りに心躍らせ、糸島の名所を巡った後、福岡市の舞鶴公園に足を延ばした。園内にある福岡城跡の天守台に、パイプで組み上げた「幻の天守閣」がお目見えし、6日まで見学できるとのニュースに触れ、桜越しに見上げてみることにした。夜はライトアップされるが、天守閣が実際にあったら、その存在感はどんなものだろうとイメージしたくなり、昼間に訪ねてみた▼丘陵の最上部に築かれた石垣の天守台。その上に高さ14メートルの仮設の工作物が載るだけだが、青空にそびえるさまには迫力があった。天守閣の復元をめぐって今、さまざまな動きが出ている。福岡商工会議所が設けた専門家懇談会が「復元的整備を迅速に進めることが適切」とする提言をまとめ、1月に福岡市長に報告。若者に、郷土に誇りと愛着を抱いてもらう見地から天守閣を復元することに大きな意義があるとしている▼ただ、復元的整備といっても、そもそも福岡城に天守閣があったのか。設計図などの史料は見つかっていないが、懇談会によると、黒田氏から家臣に対し、天守建築の命令や修繕の指示があったことを示す書状が発見されているという。福岡市も天守閣の存在をうかがわせる新史料が見つかったと発表し、本年度には天守台で初めての発掘調査も実施する▼建設から60年近くたつ佐賀県唐津市の唐津城天守閣は「昭和の名城」と呼ばれている。唐津城は天守台があるだけで、天守閣は築かれなかったとされるが、城下町の観光拠点となるよう模擬天守として建てられた。今は、市民に愛されて唐津のシンボルとなっている▼ただ、建設を巡っては当時の市議会で議論が白熱した。「天下の迷城(めいじょう)を造ろうというのか」「経済波及効果は十分にある」。賛否両派の住民が傍聴席に詰め掛け、入場できなかった人もいたと、議事録や市史が伝える。福岡城跡は国の史跡であり、復元的整備を行うのであれば、城跡の価値を次世代に確実に伝える役割を担えるものでないといけない。これを前提とし、市民の声を重視しながら活用を図っていくべきだろう。
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