【糸島市】《糸島新聞連載コラム まち角》人とクマとのすみ分け

まち角アイキャッチ

九州では絶滅したが、国内各地では、クマが日常生活の場に出没し、人を襲うケースが相次いでいる。目撃情報のあった地域では、住民は撃退用スプレーを持ち歩き、子どもたちはクマと鉢合わせにならないよう、人の存在を知らせるための鈴をランドセルに付けて通学する。近くにいるかもしれないクマにおびえながら生活する人たちのことを思うと胸が痛む▼街に出没するクマが激増している要因の一つが餌となる木の実の不足。秋田県など東北地方の5県では、クマの餌となるブナの実が今年は大凶作で、山中で餌が得られなくなり、クマは餌を求めて市街地に紛れ込んでいるという。クマが民家の柿の木に登って居座る様子が度々報道された▼もう一つの要因とされるのが里山の管理不足。里山は、人の生活圏とクマの生息域の緩衝地帯。だが、その役割が機能しなくなっている。里山で過疎化が進み、耕作放棄地が増えたことで、クマが身を潜めることができる茂みが生まれた。緩衝地帯の減少によって人の生活圏とクマの生息域が隣接し、クマが街に入るようになった▼国はこうした事態を受け、クマ対策を強化。計画的に捕獲して頭数を管理する「指定管理鳥獣」にクマを追加した。そして、9月からは、市町村長の判断で市街地に出てきたクマを駆除する緊急銃猟制度が始まった。ただ、これらは対症療法であり、根本的な解決を図るには、人とクマが「すみ分け」を行う環境整備をしなければならない▼明治時代、すみ分けではなく徹底的な駆除によって絶滅に追い込まれた動物がいる。江戸時代には、農作物を食い荒らすイノシシやシカを捕食することから、益獣とされたニホンオオカミだ。明治になって畜産業が盛んになると、オオカミは家畜を襲う害獣として報奨金付きで捕殺が奨励された。感染症の流行も重なって絶えてしまい、生態系のバランスが崩れた。現在のイノシシやシカの生息数の増加と無縁ではないと思われる。過去の誤った事例を省みて進めていく人とクマのすみ分け。それは「共存」ともいえるだろう。

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