冬季の重要作業 果樹・庭木編
植物は、つくづく偉いなと感心します。例えば、落葉果樹の梅は、早春には芳香な花を咲かせ、その後、たっぷりの葉で枝を覆い、初夏にはたくさんの実をつけてくれます。暑い夏を乗り越え、秋から冬にかけては、厳しい寒さや水分不足から身を守り、春に備えるため葉を落とし、一年のサイクルを終えます。自然の中で、生き延びる強さも感じます。
しかし、近年、梅だけでなく、桃や柑橘(かんきつ)などの果樹のほか、月桂樹や椿などの常緑樹、バラやサルスベリなどの落葉樹など、品種、品目を問わず、立木で問題になっているのがカイガラムシ類の寄生。
柑橘などの常緑樹にカイガラムシが発生すると、葉についた排せつ物に菌が繁殖し、すすをつけたように、黒く変色してしまいます。直接的な葉の病害ではありませんが、葉が黒く覆われてしまうので、光合成機能が損なわれ、結果として樹勢がどんどん衰えてしまいます。また、柔らかい枝に寄生し、樹液を吸うため、枝が枯れ始めていきます。特に、剪定(せんてい)作業などの管理が遅れ、幹全体の通気性が損なわれると、幹の中心部当たりからの発生が多くなります。
カイガラムシもたいへん種類が多く、特に寄生が多いのが「ルビーロウカイガラムシ」。この種類はインド原産とされ、明治初期にミカン苗について日本へ浸入した害虫。ちなみに、ルビーロウカイガラムシを指でつぶすと、赤い液体が出てきます。この液体は「コチニール色素(カルミン酸)」という成分です。この成分は、染色や絵の具(カーマイン)など、幅広く利用されているそうです。不思議ですね。

カイガラムシ類の防除は、冬の重要作業なので、ちょうど3年前のこの連載の第6回(2022年12月23日号)でもご紹介いたしました。希釈したマシン油をたっぷりと散布するのが防除としての有効手段と言えます。ただし、マシン油は物理的に虫を窒息させますが、ルビーロウカイガラムシの成虫は背中に硬い殻があり効きにくいのが難点です。このため、散布前になるべく、歯ブラシなど幹を傷つけにくいブラシを使って、こすり落とした後、散布することをおすすめいたします。

マシン油乳剤は「油膜で虫の体を直接覆うことで虫の呼吸を妨げ、窒息させる」という物理的な作用によって殺虫効果を示す「気門封鎖剤」の一つで、害虫が抵抗性を得にくく、天敵への影響が少ないなど環境に配慮した面が特長です。
柑橘類では40倍、梅などの落葉果樹類は濃いめの20倍に希釈し、枝、幹、樹皮全体に、むらにならないようたっぷり散布することがポイントです。

ルビーロウカイガラムシの繁殖力は非常に高く、1匹のメスが相当数の卵を産むことができるので、目にしたらブラシで削り落とすのが最良だと言えます。
(シンジェンタジャパン・アグロエコシステムテクニカルマネジャー 古藤俊二)
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