アーティスト 大川 博
随筆集「枕草子」の作者として知られる平安時代中期の清少納言曰(いわ)く、夏は夜。月のころはさらなり。
糸島は夏。海辺のあたりはさらなり、と思う。
満月が照る夏の夜。青い帳(とばり)がおりるとき、深江の浜辺に出ると、ただ、さざ波が聴こえるだけ。箱島は愛染明王を祭る神社がある。百年ほど前は、貴顕が月を映す水面を愛でたという。同じ月夜、二見ヶ浦にある夫婦岩は、白い鳥居と共に、黄金色の月光を浴びていた。
糸島半島西側の突端から眺める穏やかな湾。その向こうで脊振山地の峰々が月光を浴びる。沖合に目をやると、鎮山がどっしりとそびえる姫島が浮かぶ。半島の先端にそびえ立つ山をはさみ、外海の玄界灘に臨む芥屋の浜が広がる。沖合の力強い波が自然の雄大さを感じさせる。
引津亭(とまり)は万葉の昔、遣新羅使がここで汐(しお)待ちをした。可也山を近くに望みながら詠んだ歌が残る。「草枕 旅を苦しみ 恋ひ居れば 可也の山辺に さ雄鹿鳴くも」
姉子の浜は、歩くとキュッキュッと音を出す鳴き砂で知られる。東を遠く見渡すと、羽島越しに、可也山の優し気な山容がほのかに見える。今も昔もかわらぬ月照の海。夏の夜風は心地よきかな。
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大阪で育ち、京都で学び、東京で働く。縁あって、糸島の風景を描く。アート(視覚)、オーディオ(聴覚)、アロマ(嗅覚)を融合化し、没入感をより深める作品を、毎年個展で発表。
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