自然と対話をして、心地いい一日が始まる。早朝から自宅の庭で勢いよく鳴くセミの声を耳にして目覚めた時、夏がいつものように巡って来たことに感謝する。実は、春にも似た感覚になるときがある。鳥たちが日の出とともに、一斉にさえずり出すのだ。専門家は、この現象を「夜明けのコーラス」と呼んでいる▼セミも、鳥も、どうして明るくなり始めた途端、元気よく鳴き出すのだろうか。科学的に解明されているかもしれないが、同じ生き物という立場で、朝から「歌を歌う」という行動を感覚的にとらえてみるとー。夜が明け、鳥がさえずり、セミが鳴くのは、闇の世界をくぐりぬけ、いま、この瞬間を生きていることを感じ取っているからではなかろうか。だからこそ、生きて存在していることを精いっぱいアピールする。そして、命をつなぐため、ペアとなる相手を見つけ出す▼朝起きた時、心臓が鼓動している。どうして、いま、この瞬間、心臓は動き続けているのか。寝ている間に命が去ってしまうことなく、眠りから覚め、生気が湧いてくる。鳥やセミと「対話」していると、命の不思議を深く考えさせられる▼今週号の風景画連載「糸島八景」で、満月に照らされた糸島の海を描いたアーティストの大川博さんは、東京から糸島に取材に訪れた際、夜明けに深江の浜を歩き、穏やかに打ち寄せるさざ波の音に心を打たれた。これも、また「自然との対話」▼大川さんは糸島の海を8枚の連作にして描き、動画を制作した。BGMは、幻想的なピアノ曲「月の光」(ドビュッシー作曲)。自らが深江で収録したさざ波の音を組み合わせ、動画と共に鑑賞できる。今回は、これまでの連載の動画にはない新たな趣向も凝らす。糸島新聞のホームページで公開中だ。「自然との対話」から感じ取った糸島のさまざまな表情を見せる海辺の心象風景。ぜひ、堪能してみてください。
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