【糸島市】《糸島新聞連載コラム まち角》グランブルーの海

まち角アイキャッチ

「ルート・グランブルー」。家族と久しぶりに佐賀県唐津市の呼子方面にドライブしたとき、こう記された新しい看板を見かけた。玄界灘に沿って走る国道204号に、「深い青」を意味する愛称が付けられていた。その名を目にした時、イルカと海で戯れる少年の姿がふと思い浮かんだ▼少年の名は、ジャック・マイヨール。後に素潜りで人類初の水深100メートルを超える潜水に成功した伝説のダイバーだ。調べてみると、ルート名のグランブルーは昨年11月、佐賀県によって命名された。思っていた通り、マイヨールをモデルにした映画「グラン・ブルー」にちなんだものだった。実は、このルートの中に、マイヨールの人生を決定づけた場所がある。波の浸食でえぐられた洞窟が並ぶ景勝地、七ツ釜だ▼マイヨールは1927(昭和2)年生まれのフランス人。唐津は戦前、虹の松原の中に外国人専用のホテルがあり、国際的なリゾート地だった。中国・上海のフランス租界で生まれたマイヨールは、幼い頃、家族と一緒に夏のバカンスを唐津で過ごした。10歳のとき、マイヨールは七ツ釜で素潜り中、イルカと出会った。目と目が合ったという。このときの感動が、ボンベなどを使わず自分の息だけで素潜りをするフリーダイビングの先駆者へと導いていった▼マイヨールは生前、何度も唐津に足を運び、地元の人たちと親交を深めた。亡くなる2年前、西日本新聞のインタビューに、こんな言葉を残した。「時の流れに身を任せて暮らす航海者。ただ、モーターや機械は嫌いだから、帆が一番」(99年9月30日付け朝刊)▼ルート・グランブルーは、新たに開通した唐房(とうぼう)バイパスから波戸岬までの約20キロ。東松浦半島の海岸線を巡るため、回り道をしているイメージがあるが、マイヨールのように時の流れに身を任せて絶景を愛でるのも一興。晴れ渡った空とグランブルーの海が、おおらかな気分にさせてくれる。

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