大内士郎さん、神田紅さん呼びかけ 命日に故郷で顕彰イベント
女性解放運動家で、糸島郡今宿村(現福岡市西区)出身の伊藤野枝(1895-1923)の思いを未来へ伝えていこうと、野枝の命日の16日、イベント「伊藤野枝メモリアル2024」が故郷で開かれた。郷土史家、大内士郎さんと講談師、神田紅さんによる対談では、文芸誌「青鞜(せいとう)」で、野枝のデビュー作となった「東の渚(なぎさ)」の詩碑を地元の海岸に建立したいとの思いが熱く語られた。
イベントはJA福岡市今宿支店で開かれた。旧態依然とした家族制度の下、理不尽な因習が渦巻く社会に飛び込み、打破しようとした野枝の生きざまに共感する人など約110人が参加した。
野枝は、東の渚を発表する前、家同士で決めた婚姻を拒否し、故郷で離婚交渉に臨んでいた。ただ、娘は家の繁栄のため、親の都合によって結婚するのが当然と考えられていた時代。そのときの交渉は失敗したという。東の渚は、故郷の磯の離れ岩にとまった海鳥に自身を重ね合わせ、当時の追い詰められた心の内を表している。
対談では、大内さんが、東の渚と思われる海岸の場所などについて説明した。この後、会場の参加者から「記念碑があれば、全国から訪ねてくる人たちを(ゆかりの地として)案内できるようになる」との声が出て、神田さんも「この詩が碑に刻まれるのが昔からの私の夢」と語った。その上で「碑が建てられると、これからの女性のため、日本のため、世界のためになる」と、実現に向けて思いを込めた。
また、弁護士の徳永由華さんが「虎に翼、そして野枝」と題して講演。野枝の時代、明治民法の「家制度」により、女性の権利がかなり制限されていた状況を説明し、それに違和感をもち、活動した野枝のエネルギーのすさまじさを語った。
今年3月の文化祭で野枝の劇を演じた修猷館高の生徒も参加。イベントの中で、劇に取り組んだ思いを語る機会があった2年生の林龍之介さんは「何にもとらわれず、自由に生きようとした野枝さんの生きざまはすごい」と感想を話していた。