県内8例目 安心して過ごせる環境目指す
糸島市議会が9月定例本会議で可決した「糸島市こどもの権利条例」が9月30日施行された。少子化や核家族化、貧困、虐待、ヤングケアラーなど、急速に変化する子どもを取り巻く環境の中で、おとなの責任と義務、役割を明確にし、子どもをはじめ、子どもの育ちに関わる全ての人たちを、地域全体で支え、子どもの権利を守っていくと定める。
子どもの権利を保障する総合的な条例は、2024年5月時点で全国69の自治体で制定され、県内では8例目。
条例は、国連で89年に「児童の権利に関する条約」が採択され、その中で定められた「差別のないこと」「子どもにとって最善の利益」「生命の保護と成長」「意見表明と参加」という四つの原則を踏まえている。
日本は94年にこの条約を批准し、神奈川県川崎市が00年にいち早く「川崎市子どもの権利に関する条例」を制定。同条例に基づき「市子ども会議」などを通じて子どもの声を市政に反映する仕組みが整えられ、04年には公設民営の「川崎市子ども夢パーク」が開園。子どもたちが自由に遊び、自主的に活動できる居場所として定着するなど先進事例となっている。
糸島市の条例は、子どもを「おとなから守られる存在」ではなく、「権利を持つ主体」として捉え、子どもの権利を守るため、市や保護者、地域、事業所、教育施設など大人が果たすべき役割を明記。
市は、国などの関係機関と連携し、子どもにやさしいまちづくりを進める責務を負うとし、保護者に対しては、子どもの権利を尊重し、子育てに取り組むことを求めている。地域社会は、子どもが安心して成長できる環境を整えるために協力し合い、事業所には子育てを支援することを求める。さらに、教育施設は、子どもが権利を学ぶ機会を創出する義務を負うとしている。
条例づくりは市民が制定を求める請願を出したのがきっかけ。採択された後、小中高生対象の子ども会議やワークショップ、子どもや保護者を対象にしたアンケート調査など、住民参画の手法を取り入れて作られた。
アンケートの結果からは、子どもの権利に対する理解がまだ2割程度にとどまっていることや、小中学生の4人に1人が自分の考えを伝えられていないと感じていることが明らかになった。また、「自由にゆっくり過ごせる場所が欲しい」という声も多数寄せられたため、条例には「休み、自由に過ごすことができ、豊かに育つ権利」といった独自の条文が追加され、子どもが安心して過ごせる環境づくりを求める声が反映されている。さらに、権利侵害があった際には迅速に対応できるよう「糸島市こどもの権利救済委員会」が設置されることも盛り込んでいる。
市は、この条例を基に新たに子どもに関する行動計画を策定予定。市の子育て支援課の木村和美課長は「まずは子どもの権利の啓発に取り組む。条例の理念を基にどのように施策を展開していくか、これからが正念場だ」と話した。(糸島新聞10月11日号に関連記事掲載)