【糸島市】《糸島新聞連載コラム まち角》アレンタウンの槌音

まち角アイキャッチ

米国のトランプ大統領が掲げる「米国第一主義」。「自国に製造業と、その雇用を取り戻す」として、目まぐるしい展開をみせる大統領の関税政策が世界を混乱させている。高関税によって自国産業を守り「アメリカを再び豊かに」と、大統領が訴えるニュースに触れた際、この政策でだれが豊かになるのか思いを巡らせた。そのとき、40年ほど前、世界的にヒットした歌を思い出した▼米国の人気歌手、ビリー・ジョエルさんの名曲「アレンタウン」。曲の最初に流れてくる製鉄所の槌(つち)音が心に残っている方もおられるだろう。曲名のアレンタウンは、米国東部のペンシルベニア州にある都市。歌は、アレンタウンに隣接するベスレヘムで鉄鋼業が衰退して工場が次々と閉鎖し、街が寂れていく様子を描く▼米国の鉄鋼業は第二次世界大戦中、軍需によって生産高が大幅に増加、大戦末期の世界シェアは6割に達した。ただ、戦後、労働者の賃上げが繰り返され、新技術の導入も進まず、国際競争力を失っていった。そして、1980年に粗鋼生産世界一の座を日本に明け渡した▼アレンタウンの歌が作られたのはこの時期。歌に出てくる主人公の若者は、苦境に立たされても、この街を去ろうとはしない。一生懸命働き、真面目に生きていれば、いつかは、幸せに暮らせる時代がやって来る。そう信じ、アレンタウンでそのときを待っていることを感じさせる歌だ▼大統領が進めようとしている貿易政策の歴史的な大転換。それによって、アレンタウンに登場したような中間層が豊かに暮らせるようになるのだろうか。多くの人が指摘するように、関税の引き上げにより、米国内では輸入品が値上がりし、米国民の負担が大きくなる恐れがある。さまざまなモノの価格上昇でインフレが加熱し、景気に悪影響が出るとの指摘もある。製造業が復権したとしても、中間層は本当に幸せに暮らせるのか、さまざまな見方がある。久しぶりに、CDでアレンタウンを聴いてみた。かつて心打った槌音。今は、彼方で響いているかのように感じられた。

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