文系の学びを地域に還元
文学や歴史、哲学などの「文系」の学びは、社会の中でどう生かせるのか-。そんな問いに向き合い、自分たちの学びを地域に届けようと、九州大学の文系大学院生などでつくる「九州人文社会科学研究会」(平田哲也代表)が6日、糸島市の東風コミュニティセンターで本を通じた交流イベントを開いた。参加者が専門分野に関わる書籍などを紹介し合い、「一番読みたくなった本」を投票で決める「ビブリオバトル」を実施した。

会場には、九大文学部の学部生・大学院生など10人が参加し、うち2人はオンラインで発表に加わった。登壇者は、それぞれが選んだ本の内容や魅力、考えさせられた点を、分かりやすい言葉で紹介。歴史や思想を学ぶ立場から、現代社会とのつながりを語り、参加者が聴き入った。
トップバッターを務めたのは、同研究会立ち上げメンバーの川上達也さん。「皆さんは、頭に血がのぼるような熱狂にうなされ、革命的な行動に身を委ねていった人々の姿を見たことがありますか?」と問いかけながら紹介したのは、アナトール・フランスの「神々は渇く」。フランス革命下の恐怖政治の時代を舞台に、革命の理想に燃える若者が次第に暴走し、あっという間に没落していく姿を描いた作品。SNSでの言動が加熱する現代とも重ね合わせながら「正義とは何か。人が人を裁くとはどういうことか。そんなことを考えながら読んでみてください」と締めくくった。
また、学部3年の佐藤夢乃さんは、ナチス・ドイツやスターリン体制下の大量虐殺を、市井の人々の視点から描いたティモシー・スナイダーの「ブラッドランド」を紹介。「教科書では見えにくい、生きたくても生きられなかった人々の姿に触れ、『生きることの尊さ』を学んだ」と力を込めた。
最後の投票では、明治初期に「国民」という概念が形成されていく過程を描いた「客分と国民のあいだ」を紹介した尾林克幸さんの本が選ばれた。
同研究会では今後、10月に「人文社会科学の意義を問う」と題した講演会を企画。歴史学が社会でどう活用されるかを考察し、その意義を探る。
(糸島新聞社ホームページに地域情報満載)