【糸島市】《糸島新聞連載コラム まち角》人の暮らしで維持された自然

まち角アイキャッチ

 秋の訪れを感じ取ってみようと、標高約600メートルの山間地にある佐賀県唐津市七山の樫原(かしばる)湿原に出掛けてみた。「九州の尾瀬」と呼ばれる湿原植物の宝庫。現地で配布されているパンフレットの写真で植物の名前を調べながら、観察道をゆっくりと歩いた▼黄色い粒のような無数の花を咲かせたオミナエシを愛でながら、足元に目を向けると、マアザミが凛(りん)と茎を直立させて赤紫の花をつけていた。密集する細い管状の花をのぞき込むと、いくつもの管の先が白くなっていた。スマホで撮り、画像を拡大してみると、白い粒のようなものがわき出している様子が観察できた▼「チョウが止まって蜜を吸ったんでしょう。虫が触れると、白い花粉が出てくるんです」。撮影を続けていると、近くで草刈り作業をしていた男性がそばに来て、管の中から花粉が出てくる仕組みを丁寧に説明してくれた▼男性は、湿原の維持管理を佐賀県から委託されている会社の代表。湿原について紹介するホームページを開設しているので、ぜひ参考にしてみてほしいとも話していた。それにしても、どうして草刈りをしていたのか。自然は、あるがままでいいのではないかと思っていたが、後日、ホームページを見て、そのわけが分かった。この湿原は、地元の人が稲作に利用し、火入れや採草、まき・炭の原料とするための森林伐採といった管理を継続的に行うことでつくられたというのだ▼里山と同様、湿原は、人による適度な関わりがなくなると、森林へと変化していく。人の暮らしによって維持されている自然とはいえ、それは明るい地表面を好む動植物にとって生息しやすい環境。生物の多様性が高められている。ただ、生活スタイルや時代の変化とともに、まき・炭の必要性が低下するなど湿原周辺の環境の管理に影響が出ている。この湿原で目標とされるのが昭和40年代前半の状態への再生だ。人の営みよって形づくられてきた生き物の楽園。理解者が増え、地域の宝として後世に引き継ぐ力となることを願っている。

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