【糸島市】《糸島新聞連載コラム まち角》至極色の黄昏時

まち角アイキャッチ

黄昏(たそがれ)時の空が美しい季節になった。糸島で最も気に入っている風景の一つが日の入り後の加布里湾。薄明の大空が赤やオレンジ、緑、紫に染まり、鏡のような水面に映る。この上なくぜいたくな風景だと、目にするたびに感じる。こうした時間帯は、魔法にかかったように幻想的な空が広がることから「マジックアワー」と呼ばれ、その色の名は「至極色」と言われる▼ただ、昔、黄昏時は怖い時間帯という受け止め方がされていた。黄昏という言葉の由来は「誰(た)そ彼(かれ)」(あなたは誰?)。日が暮れて薄暗くなり、相手の顔がよく見えないために問いかけをする。その「たそかれ」が転じて「たそがれ」になったという説がある▼街灯のなかった昔、日没後は暗闇の世界が広がる。「逢(お)う魔が時」とか「大禍(おおまが)時」という言葉があり、これらは黄昏時を指す。底知れぬ闇が迫ってくる時間帯。昔の人が妖怪や魔物に遭遇したり、大きな災いがあったりすると信じていたことを示している▼黄昏は、英語では「twilight(トワイライト)」。60年以上前に米国で「トワイライトゾーン」というSFテレビドラマシリーズが放映された。登場人物が超常現象の起きる不可思議な世界に迷い込むドラマ。若い頃に見たこのドラマのリメイク版で、空の怪物グレムリンが怒髪天を突く形相をして旅客機のエンジンに取り付き、破壊するシーンを思い出すと、今でも身の毛がよだつ。昼間でもない、そして夜でもない、不確かな時間帯。そのあいまいさが怖さを呼び起こすのは日本だけに限らない▼一方で、この黄昏時を秋の光景で一番のお薦めとしている平安時代の随筆家がいる。「枕草子」を書いた清少納言。この随筆集の中で「秋は夕暮れ」と記した後、烏(からす)たちがねぐらへと飛んでいく心にしみる情景をつづる。そして、日がすっかり沈んでからの風の音や虫の音も、また言うまでもないと。にぎやかな虫の音を聴きながら、黄昏時から夜のとばりが下りていくにつれ、さまざまに変化する空を堪能できる季節。黄昏時は至極の言葉がよく似合う。

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