【糸島市】《糸島新聞連載コラム まち角》魔除けの赤い実

まち角アイキャッチ

自宅の玄関先に植えているナンテンの実が秋の深まりとともに赤く色づいてきた。ナンテンは「難転」の語呂合わせから、難を転じるとして縁起の良い木とされている。江戸時代の百科事典「和漢三才図会」には、ナンテンを庭に植えると火災を避けられるとあり、厄よけのご利益があると信じられてきた▼親戚の家には、便所のそばにナンテンが茂っている。こちらは清らかな空間を保ちたいとの願いが込められているのだろう。実は、ナンテンの葉をラミネートした縁起物が頒布されていたので、それを入手し、交通安全のお守りにして運転席のそばに置いている▼こうした力がナンテンにあると信じられているのは、単なる語呂合わせだけでなく、鮮やかな赤い実をつけることにある。真っ赤な実は、邪気に対して威圧感がある。日本では古来、赤色には魔よけの力があると信じられてきた。神社の鳥居の多くが赤色なのも同じ理由からだと思う▼赤い実は、鳥に対しても大きなアピールをしている。ヒヨドリが山地から平地におりてくる季節となり、自宅の庭にも細身で尾羽がやや長い灰褐色の姿を見せるようになった。毎年、ナンテンの実が熟す頃になると、何羽もが一緒にやって来てにぎやかに枝々を飛び回り、実をついばむ▼鳥たちを引き寄せる赤い実だが、意外にも有毒な成分を含んでいるという。専門家の見方によると、毒によって障害が引き起こされないよう鳥たちは、この実を大量に食べることはせず、少しずつ食べては別の場所に移動していく。その先で消化されなかった種を、ふんとして排せつする。こうして離れたところに種が散布され、ナンテンは生育する場を広げることができるのだという。江戸中期の俳人、与謝蕪村にこんな句がある。「鵯(ひよどり)のこぼし去りぬる実の赤き」。食欲旺盛なヒヨドリたちが宴を終えて去った様子が思い浮かぶ。この時期、赤い実をつける樹木は、ナンテンだけでなく、センリョウ、マンリョウと多い。蕪村の詠んだ赤い実は何だったのか。想像しながら近所を散策してみるのも楽しい。

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