麦畑を望む二丈岳の麓、糸島市二丈上深江に昨年11月、「糸島HELLO BREWERY」がオープンした。「地元で湧き出たおいしい水」で仕込んだビールに、糸島産のあまおうイチゴやカキ殻など特産品を加え、個性あふれる7種類のビールをつくる小さな醸造所だ。
建物の前の水路には、山から湧き出たせせらぎが心地よく流れる。施設の隣は、目の前で出来立て、つぎたてのビールと軽食が楽しめるカフェも併設する。
1回の仕込みでできるビールはおよそ200リットル、大麦を発芽させたモルツ(麦芽)の使用量は30〜60キロ。地下45メートルからくみ上げた水を「ビールの仕込み水」として使う。温度管理を徹底しながら、発酵と熟成をすすめ、3~4週間で出来上がる。
異業種からクラフトビールの世界に飛び込み、醸造技術に磨きをかけるのは、糸島に8カ月前に移住した長谷川太一さん(26)と村山優斗さん(29)。長谷川さんは東京で有機野菜を扱う八百屋で働いていたが、学生時代に海外で出会ったクラフトビールのおいしさにはまり「いつか自分でつくりたい」との思いを形にした。日本酒で有名な山形出身の村山さんは、「日本酒よりビールが好き」。サッカーコーチからの転身だ。
94年に酒税法が改正され、小規模醸造所でのビール製造が可能となった。「まだ歴史が浅く、業界が小さいからか、いろいろと教えてもらえる」。ヘッドブルワーと呼ばれる経験豊富なビール職人に教わりながら、試行錯誤を重ねる。
日本地ビール協会が毎年開催する日本全国のクラフトビール品評会が2月に行われ、2人が作る黒糖のコクと甘みが印象的な黒ビール「スタウト」が銀賞を獲得した。「糸島で採れる甘夏のビールもつくってみたい」と長谷川さん。「始まったばかりのブルワリーが進化していく過程を見てほしい」と目を輝かせた。