1000年先に思い込め製造
「伊都の国洗剤hinata」。ガラスの容器に詰めた明るい黄色の液体洗剤はふたを開けると、ヒノキのすがすがしい香りがする。福岡市西区今宿の合同会社ひなた製作所の園田克彦さん、みどりさん夫妻は、糸島のスギやヒノキのおがくずから抽出した精油と、植物油脂由来の界面活性剤、強力な抗菌作用を持つ青森ヒバ油を主な原料とする洗剤を配合する。プラスティック包装を減らし、必要な量を買えるよう、量り売りを基本に販売する。
洗濯、掃除、手洗いと「なんにでも使える」というこの洗剤。「洗濯のすすぎは無しでOK」。全体の0.1%とわずかに含まれる再付着防止剤が、繊維からはがれた汚れを取り囲んで吸着し、「洗い」の工程で流してしまうためすすぐ必要がないという仕組み。植物油脂由来といえども環境に負荷をかける界面活性剤の量も、一般的洗剤の約7分の1に抑え、添加物は一切不使用。少量の洗浄成分でも効果を発揮できる調合となっている。
この調合は、園田さんが以前一緒に働いていた有限会社がんこ本舗(福岡県糟屋郡)の木村正宏さんが開発した。海洋タンカーの事故処理研究から生み出したという。
使用後に環境中に排出されても、微生物により分解され環境への負担が少ない洗剤に、地域の産物を利活用した精油を加え、地元に愛される地域洗剤に。「食品の地産地消の大事さが叫ばれる今、地域の環境や子どもの未来を思うような地産地消の洗剤をつくろう」。木村さんの思いに背中を押され、2人は糸島産の地域洗剤作りに着手した。
市内の製材所から分けてもらったおがくずから精油の抽出に成功。素材のそろった21年、ひなた製作所を設立し、今宿の自宅で製造を開始した。
「地域洗剤を広めるために、ビーチクリーンが大事」。海の環境を守りたいという思いを原点に、自宅近くの長垂海岸でひたすらビーチクリーンに取り組んだ。そこから、思いを同じくする仲間につながり、第1号の量り売りステーションを野北の海岸沿いで営業していたタビノキセキの姉妹店「リサラ」に置かせてもらった。
3年目になる現在は、福岡市西区と糸島市だけでも雑貨屋、カフェなど30カ所に置いている。
「千年以上に渡って守り継がれてきた伊都国からつながる糸島の環境が千年先も守られますように」。伊都国の歴史に関わりのある日向峠にあやかったネーミングにも思いを込める。
糸島市志摩岐志でカキ小屋を経営する徳栄丸代表松前美月さんは、伊都の国洗剤hinataを愛用する一人だ。夫の龍吉さんは、漁船のオイル交換や整備などで汚れた作業着で帰ってくることもしばしば。「いろんな洗剤を試したけれど、油汚れはなかなか落ちない。この洗剤を試しに使ってみたら汚れがきれいに落ちて」と喜ぶ。
そんな時、常設カキ小屋の共同浄化槽に分解処理しきれなかった油カスが溜まっており、別料金で処理をする必要があると知った。油汚れを細かく分解し、浄化槽内に残りにくい洗剤ならとカキ小屋の厨房(ちゅうぼう)でも使うことを決めた。原液を20倍に薄めてボトルに入れ、「揚げ物でベタベタになった床にも効果てきめん」と使い心地を気に入っている。
志摩野北でキャンプ場を経営する「OHANA camp&bbq」では、キャンプサイトの炊事場に伊都の国洗剤hinataを常設する。海を眺めるキャンプサイトでは、炊事場で使った水はそのまま海に流れ込む。「チェックイン時に、『極力洗剤は使用しないで。使う場合は備え付けの洗剤を使って』とアナウンスしています」と花田利絵さん。家族でキャンプに行く時も、スプレータイプのボトルに入れた洗剤を持参し「使ったお皿に吹き付けペーパーで拭きとるだけで食事の片づけは終わり。特に雨の時なんかは炊事場まで行かなくてもいいし重宝しています」とにっこり。
福岡市中央区からキャンプに来た原田拓弥さん(28)は4回目というリピーター。医療関係の仕事で手指消毒を頻繁にするため手荒れがひどいが、「ここで食器を洗った後は保湿の必要がない」。肌への刺激が少ないのも特徴だ。