糸島新聞
1917(大正6)年創刊

毎週木曜日発行 購読料 1カ月 900円(税込)1部 225円(税込)
糸島新聞社
福岡県糸島市前原東1-8-17
TEL:092-322-2220
FAX:092-324-5115
itoshin@blue.ocn.ne.jp

ニュース
News List

続・糸島伝説集

2022.01.28

薬売りに扮した謎の間者 志摩桜井(下)

 落合というところまで来た時、背後から一団の黒い影が見え、怒号も聞こえてきた。どうやら先ほどの里正の家での一件を聞きつけて追ってきた村人のようだった。すぐに追いついた一団は薬売りの二人を取り巻き、「怪しい二人組だから捕りたててこいとの命令だ」と言う。

 護身用に行李(こうり)の底に刀を隠してはいるが、今は町人の姿をしているので刀は簡単に抜けない。相手が手に持っているこん棒などを奪って、打ち据えたりして追い散らしていたが、相手も屈強でなかなか引こうとはしない。それで従者は、一団の一人から竹やりを奪うと戦場さながらの腕前をみせた。

 すると、一団のリーダー格の男が「恐ろしく腕の立つ相手だ。これは只者(ただもの)ではないぞ、わしらの手には負えないから早く引き上げよう」と声を上げると、一目散に逃げ去って行った。

 従者は荷物をまとめて立ち去ろうとして、若い男の方へ目をやると、草の上に正座して頭を垂れている。これはただ事ではない。「若君」と声を掛け近寄ると、いつの間にか行李から取り出した刀で腹を切っているではないか。

 近寄って「若君、なぜご自害なされた」と声を掛けると、「国を出て長い月日の間、共にしたその方を残して旅立つのは誠に相済まぬ。父君から命ぜられた任務も果たさず残念だが、予の生来の気性がその方に迷惑をかけるばかり次第で、前途が心細い。先ほどその方から諫言を受けた折、予の方が先に切腹するのが当然と思った。その方は早々に国に帰って父君に今日までの始末を報告してくれ。さらばじゃ」と言い終わると息絶えた。

 従者は自分も後を追ってと一瞬考えたが、素性が明らかになれば大変と、主人の行李の中から重要な品を取り出し、いずこへかと姿を消した。

 明るくなって村の人たちが集まって、自害の光景を見て「この方は薬売りではなく、お武家様だ」と語り合った。残った行李の中からは薄物の羽織や銀製の鏡などのほか、柳河藩立花左近将監宗成の二男らしいことが分かる書付もあった。

 この武士の遺骸は、村人たちの手によって桜井村井牟田の柏崎の山に懇ろに葬られたという。従者の男も藩に戻って、主君に若君のことを報告したうえ、割腹して若君に殉じたという。

 伝説ではこのように伝えられているが、なぜ二人の武士が薬売りの姿に扮し、桜井村を訪れたのかなど、目的など詳細は語られていない。

ニュース一覧