糸島新聞
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続・糸島伝説集30

2022.06.17

長糸村別処の「妻恋石」(上)

 長野川上流にある白糸滝は有名だが、古老の話によれば、もう一つ「天白滝」という滝があるという。昔の書物には「肥前へ行く長野峠の桜の馬場付近から左に入ったところにあり、千姿万態の奇岩怪石が奔湍(ほんたん=奔流)を作り、深淵を湛(たた)えている」という。

 この伝説は、天白滝にある奇岩怪石にまつわる話である。
ずっと昔、長野の里に年老いた父親が三人の美しい娘と暮らしていた。ある夏の日、父親が山田の草取りに出掛け、黙々と仕事をしていたが、あまりにも暑いので畔に腰を下ろして一休みしながら「自分に代わって田の草を取ってくれる者がいたら、娘を一人やってもいいが」とつぶやいた。

 すると、どこからともなくまるで猿のような一人のたくましい山男が現れて、瞬くうちにその田んぼの草を全部取ってしまった。生来正直な父親は「飛んだことになってしまった」と気にするようになり、遂には病床に就いてしまった。三人の娘は心配して、日夜看病に努めたが、容体は一向に回復しない。

 父親は思い余って三人の娘を枕辺に呼び、事の次第を打ち明け、「どうか山男の嫁になってくれないか」と、痩せ細った手を合わせて頼んだ。しかし、上の二人の娘は「山男のお嫁さんなんて馬鹿々々しい話」と、父親の願いなのに相手にしない。

 「もうこうなったからには彼の山男に嘘をついた天罰を受けるよりほかに方法はあるまい」と諦めかけていたが、一番末の娘が病床の父親を安堵させるために、「私が山男のお嫁さんになりましょう」と承諾した。

 かくて幾日か後、末の娘は山男のもとへ嫁いだ。しかし、寂しい山奥で暮らしをしているうち、華やかで楽しい町のことなど知らないままの人生を考えると、なんともやるせなくなるのであった。

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