再生の空き家に明かりともる

古民家専門の藤原さん作業

 糸島市二丈の山手集落内に、20~30年眠っていた古民家。やぶに覆われ、庭のビワやミカンの木はイノシシ、サル、アナグマなど野生動物のお気に入りの餌場となっていた。


 二丈吉井で古民家工事を専門に請け負う藤原建設の藤原一義さんに、福岡市内に住む古民家の持ち主から「家を解体して土地を処分したい」と連絡が入った。やぶに覆われた物件の中をのぞくと、畳を突き破って竹が侵食しており、窓は増築でふさがれ薄暗い状態だったが、立派な梁(はり)が残っていた。道の細い集落内にあり、家の前は石橋で、解体して更地にするだけでも相当経費がかかる物件だったが、そのままの状態で買い受けることになった


 やぶを切り開き、増築していた部分を取り除くなどするうちに直径40センチはある梁や、竹が整然と並んだ屋根下地などが現れた。「登記の記録は1917年になっているから少なくとも106年以上は経過している」。板を張り替え、壁を塗り直し、再生作業が3分の1ほど進んだところで、自社HPに情報を掲載すると、3、4人からのオファー。縁のあった長崎に住む50代夫婦の手に渡ることになった。残りの作業は、施主の好みやこだわりを丁寧に聞き取り、地元業者ならではの小回りの良さを生かし意向に沿った家に仕上げた

大工道具の化石ともいわれる釿(ちょうな)を使って付けた跡について説明する藤原さん


 「近所の方からは『ずっとやぶだったこの家に明かりがついているだけでとても嬉しい』と言っていただけて。優しいご近所さんに恵まれて本当にうれしいです」と施主。掃き出し窓についているウッドデッキが縁側の役割となり、「お花を頂いたり、お野菜のおすそ分けを頂いたり」とあたたかな交流が続いている。


 「遠方に住む息子から『年を取って、なぜ駅近マンションではないところを買ったんだ!』と怒られました」と話す施主。「でもね、ゴールデンウイークに遊びに来てとても気に入ったらしく、その後は何も言わなくなり、『また7月に帰って来たい』と言っています」と笑う。


 「100年以上の歴史を刻んできたおうちなので、なんだか自分の家という感覚がなくて。夫とこの家を二人占めするのはもったいないので、この家を通していろんな人をハッピーにすることができたらと思うんです」。息を吹き返した家と新しい家主は新たな歴史を刻み始めた。



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この記事を書いた人

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