水田に多様な生物の世界
古代より、稲作が盛んに営まれてきた糸島地方。大陸との交流により、栽培技術が向上していったのでしょうが、近代農業は昔とは比べようがない驚くほどのスピードで進化し続けています。特に稲作は、広大な田んぼを利用するため、無人のトラクターや田植え機、稲刈り機など、人が操作しなくてもわずかな誤差で、農作業をこなしています。空中では、防除ドローンが広い田んぼを飛び回っています。幼少の頃から、人力で田植えや稲刈りを手伝いながら育った私にとって、目がテンになる驚きの進化ですね。
実は私も零細ながら実家で、お米作りを行っています。田んぼを耕したり、肥料を入れたり、私が仕事の合間で行っています。ただ、稲作にとって最も重要な水管理は、父に任せていました。ところが、今年父がケガをし、体が自由に動かせなくなり、それから、もう大変の一言。ただ、最先端の機械に任せるのではなく、自らの手で稲作の作業を行うことで、水田が果たしている役割を体感できました。
田植えでは、水管理をしっかりと行わなければなりません。田植え直前に近所のおいちゃんたちと雑談中「雨が降らんな~。水の落ちてこん(水路の流水のこと)」「水の溜まらんと思っとたら、なんのよかろう、あぜにモグラ穴のあって、じょんじょん漏れようなかね」。田植え前になると、皆さんの神経はピリピリしています。「我田引水」とはよく言ったものです。今回、水管理をしてみて水田の価値の再認識ができました。
その価値とはー。
◇都会の中は、ビルが林立しエアコンの室外機はフル回転し、アスファルト路上には大量の車と人。異様な暑さですが、水田に立っていると気化熱で爽やかな風が吹きます。
◇広大な水田の水は、治水やダムの役割をしています。大きい河川や熊本のような湧水を持たない糸島地域は、水が潤沢にありません。水田は水タンクの役割をしていると思います。
◇田んぼは、カブトエビ=イラスト①=やホウネンエビ=同②、ゲンゴロウ=同③、ミズカマキリ、オタマジャクシなどの多様な生物の楽園となっています。水中で、ゲンゴロウが自分より大きいミミズを捕らえていますが、息が持たないのか、一生懸命息つきをしながら餌を確保しようと格闘しています。つい、見入ってしまいました。
小さくても多様な生物は糸島地域の環境を守ってくれているんだなと、あらためて感じ入りました。おいしいお米作りを目標にしながら、地域の環境を守ること。農業の本質です。
これからも、農業技術の進化を見届けつつ、田んぼの中で一生懸命生きている生物も見守っていきたいと思います。皆さんも、風でなびく稲の葉の間から田んぼの中をのぞいて見てはいかがですか。生き物たちの小宇宙が感性をくすぐってくれると思いますよ。
カブトエビ動画
(JA糸島経済部部長補佐、アグリマネージャー 古藤俊二)
※糸島新聞紙面で、最新の連載記事を掲載しています。