甘み増すホウレンソウ
今年の秋冬栽培では、どうしても気候のことが気になります。いつになっても最高気温が30度を下回らず、時として乾燥後の驚くほどの豪雨。気温が高いためか、葉を食い荒らすヨトウムシなどの害虫は多めで、さらに豪雨によって、圃(ほ)場が乾きにくく、苗定植などの作業が遅れ気味です。でも、秋の野菜作りはもう後半戦。これから仕込むお薦めで注目の品種をご紹介いたします。
寒くなるほど甘くなり、栄養化を高める寒締めホウレンソウ「冬ごのみ」(当店価格45ミリリットル、352円)「なごみ」(同30ミリリットル、316円)=写真1。ホウレンソウ特有のアクが極めて少なく、くせのない良い食味の品種です。種まき後、約60日で収穫できます。葉は切れ込みが深い剣葉形で、葉数が多く、株張りも良好。葉にねずみ色のカビがつく「べと病」にも強く、直売所出荷や家庭菜園には特にお薦めです。
では、栽培のやり方。土づくりは、1坪当たり、糸島よか堆肥くん5~7キロ、糸島かき殻石灰「シーライム」を400グラム、有機配合肥料350グラムの基肥が基本のレシピ。
土とよく混ぜてから、畝を立てます。さらにホウレン草にとって重要な役割を持つ赤い直根の成長を促すため、根の細胞を活性化させるカルシウム資材「畑のカルシウム」(同5キロ、750円)を200グラム追加すると、なおよしです。
種まきは、条間15~20センチで筋まきか点まきで。覆土後は、土を手で軽く押さえて鎮圧してから水やり。発芽までは、乾燥しないよう水やりを欠かしてはいけませんが、発芽後は乾燥と水のやり過ぎの双方を避け、適当な水分量を保つことが生育のこつです。
ここでイラスト参照を=イラスト1。葉が育ってきたら、本葉が2~3枚になるまで順次間引きをして、最終的に株間4~6センチで整えます。寒締めホウレン草は日長が短い時期の生育ですので、株に十分な光を確保するために株間は広めのほうがお薦めです。
収穫の目安は、草丈が20~25センチになった頃。収穫の約1週間前から水やりを控えるのが、品質向上のポイントです。なぜか。多くの野菜は、寒さや霜に当ると傷みます。それは、茎や葉の中にある凍った水分が溶ける際、細胞の組織が壊れてしまうから。レタスの場合、煮えたように葉が黄変し腐ります。ところがホウレン草の場合、寒さに当ると凍りつかないよう水分の吸い上げを控え、細胞内の糖分濃度を高くして茎や葉を守る。このため、水やりを控えた方がより甘くなるんです。
この性質を利用した栽培方法が寒締め。甘みが増すだけでなく、ビタミンCの含有量も、通常の場合の2倍程度になるといわれています。
なお、低温期の種まきには通気性と吸湿性、そして適度な保湿性を併せ持ちながら、透光性が大きい「パスライト」などの不織布のベタ掛けがお薦め=イラスト2。地温が確保できて、発芽がそろい、生育が安定します。
インフルエンザなどが流行しそうな今年の冬。抗酸化作用や体内に入った異物を解毒する作用があるビタミンCを、寒締めホウレンソウからたっぷりといただきましょう。
(JA糸島経済部部長補佐、アグリマネージャー 古藤俊二)
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