コラム まち角

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 稲穂が豊かに実るとき、かつての日本では、満開の桜の花を思い浮かべる人が多かったかもしれない。日本の稲作儀礼として「予祝(よしゅく)」という風習がある。あらかじめ、かなえたい夢が実現したことをお祝いし、将来、その通りの結果を得ようとする習わしだ。春の花見は元々、秋の豊作が現実になることに願い込めての予祝だとされる▼予祝は現代、勝負の世界に身を置くスポーツ選手の間でも取り入れられている。そのエピソードとして、知られているのが9年前のソチオリンピックに向かう飛行機内での羽生結弦選手。フィギュアスケートで最高の演技をやり遂げ、金メダルを獲得したイメージをして、機内で感動のあまりに涙を流したという。この予祝は現実となった▼こんな話をすると、予祝は俗信に過ぎないという見方もする人がいるだろう。言葉が持つ霊力とされる「言霊(ことだま)」も同じように受け止められるかもしれないが、期待通りの未来にしたいという気持ちは、心の奥底にしっかりとしみ込んでいくものだ▼潜在意識に入り込んだ先取りの自身の姿は、夢に向けて努力するよう行動を起こさせるだろうし、同じように前向きに生きる人と協力し合っていく気持ちを呼び起こす▼プロ野球・阪神タイガース前監督の矢野燿大さんも予祝を実践した。シーズン前に優勝インタビューをしたり、キャンプ中に選手たちに胴上げをされ、宙を舞ったりした。監督が替わっても、阪神の選手たちに予祝は根付いていると思う。いよいよ日本シリーズが28日に開幕。予祝の言葉とともに、ゲームを楽しみたい。

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