コラム まち角

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 まさに、自由闊達(かったつ)という言葉がぴったりとくる。九州国立博物館で今月末まで開かれている江戸時代の天才絵師、長沢芦雪の特別展。前期の3日まで公開された芦雪の代表作「虎図襖(とらずふすま)」を鑑賞したとき、思わず笑みがこぼれた。無邪気で明るい、わが家の愛猫とそっくりな雰囲気をかもしている▼芦雪は、京都画壇第一の絵師、円山応挙の弟子。綿密な描写で知られる応挙から学んだ高度な筆さばきを見せつつ、その構図は大胆。獲物に飛び掛かり、両方の前脚で取り押さえた瞬間をイメージしたのだろうか。襖の虎は誇らしげに前を見つめ、新たな獲物を求めて襖からいまにも飛び出してきそうだ▼ユニークなのは、胴と後ろ脚の描き方。顔と前脚はほぼ正面から見た姿だが、胴と後ろ脚は斜め前から描き、この視点の移動が躍動感を生み出す。この奔放な襖絵は、どのような状況で誕生したのだろうか▼この絵は、芦雪が紀伊半島南端の地に滞在中、描かれた。この地にある無量寺が応挙に制作を依頼したが、応挙が多忙であったため、芦雪がこの地で筆を走らせることになったと伝わる。師匠のもとから遠く離れた場所で、芦雪は独自の才能を開花させた。師匠が描く写生画の世界にとどまるだけでなく、デフォルメした強調的な表現を使った。前述した虎の前脚に描かれている爪は4本。1本の脚だけが見えているのだという受け止め方もあり、それはそれで迫力がある▼実は、この襖には猫を参考にして虎を描いたことを示唆する絵も存在する。襖の裏側に、この虎と似た姿勢の猫が描かれている。泳ぎ回る魚を捕らえようと水辺で身構えているのだ。猫は人から見ると、小さな動物だが、水中から見上げる魚にすると、虎そのものであろう。たっぷりと楽しめるエンターテインメント性。その遊び心は時代を超え、いにしえの人たちと心をつないでくれる。

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